福岡「ごぼう天うどん」人気の秘密:関東進出と意外なルーツを深掘り

世界中で愛される日本の「うどん」。近年、ご当地うどんの関東、特に東京への進出が相次ぎ、まさに「関東うどん戦国時代」の様相を呈しています。中でも、福岡発祥のうどん店が勢力を急拡大しており、多くの注目を集めています。

「資さんうどん」や、先月流行の最先端を行く原宿にオープンした「因幡うどん」など、福岡の味が東京で味わえることに感動を覚える元福岡県民もいるほどです。創業74年を誇る福岡の老舗チェーン「因幡うどん」は、満を持しての東京初上陸を果たしました。

東京で味わえる福岡うどん

原宿「因幡うどん」上陸

「因幡うどん」の看板メニューは、かき揚げスタイルの「ごぼう天うどん」です。麺は、福岡うどんの王道ともいえるフワフワでやわらかい「やわうどん」。来店客からは、「讃岐うどんと違って、柔らかさが癖になっておいしい」という声が聞かれます。丸いかき揚げ状のごぼう天は、食べるうちに衣がスープに溶け込み、ごぼうのカリカリとした食感が残るのが特徴です。都内で讃岐うどん店を営む同業者も偵察に訪れ、「ごぼうがコリコリ。それに対してうどんが柔らかいのでバランスが良い。食感が面白い」とそのユニークな食感を評価しています。

話題の「資さんうどん」も

同じく今年、福岡から東京に進出し話題となっているのが「資さんうどん」です。この店でも、名物として知られるのは「ごぼう天」。一番人気の「肉ごぼ天うどん」には、長さ14センチほどのスティック状の“ごぼ天”が目をひきます。多くの人が「ごぼうって特産なの?」「なぜえび天がメインじゃないの?」と、福岡うどんとごぼう天の関係に疑問を持っています。

福岡名物ごぼう天うどん。東京進出で話題に福岡名物ごぼう天うどん。東京進出で話題に

福岡「ごぼう天」の謎を追う

なぜ、福岡うどんといえばごぼうの天ぷらなのでしょうか?この疑問に答えるべく、取材班は「うどん王国」福岡へ向かいました。福岡はラーメンのイメージが強いかもしれませんが、ご当地うどんチェーンだけでも二桁に達するほどのうどん文化が根付いています。

地元で聞く「なぜごぼ天?」

福岡県民に「ごぼう天うどんは東京だと珍しい」「なんでごぼう天なの?」と尋ねてみると、「え!?」「ごぼ天がですか?」と驚く声や、「なんでかな、なんでやろ」「なんで~なんで知らない」と、地元の人でもそのルーツを知らないことが多いようです。「こっちが聞きたい」と逆質問される一幕もあり、ごぼう天の理由は福岡県民にとっても謎であることがうかがえます。

最古店と博物館でルーツ発見

手がかりを探るため、福岡県内で最も古いうどん店へ。創業明治15年、140年以上の歴史を持つ名店「かろのうろん」です。こちらの一番人気も、伝統のだしにごぼうのうま味が染み込む「ごぼう天うろん」。4代目店主・瓜生高康さんに、この店がごぼう天うどんの元祖か尋ねたところ、「うちは一番古かですもんね。でも、ごぼう天はうちじゃなかとは思うんですけど。父の話ちゃなんか『乙ちゃんうどん』って今はもうなかとですけど」との貴重な情報が得られました。「乙ちゃんうどん」は、かつて天神で営業していた店ではないかというのです。

しかし、「乙ちゃんうどん」は昭和初期に閉店しており、詳細は不明です。さらに手がかりを求めて福岡市の博物館へ向かいました。博多の歴史や文化を記した貴重な文献の中に、「乙ちゃんうどん」に関する記述を発見しました!挿絵には、のれんに確かに「ごぼう天」の文字が見えます。さらに、「うどんのすめ(だし)もおいしかったが、裏で揚げていたイモ、ゴボウ、イワシなど入れて食べるとさらにおいしかった」という記載がありました。

「乙ちゃんうどん」発祥秘話

文献によると、大正時代以前、店の手伝いに来ていた店主のおいが、試しに店の裏で揚げていた天ぷらをうどんに乗せたところ大評判になったといいます。中でも、特にごぼうは大人気でした。福岡市博物館の学芸員・石井和帆さんによると、「大きな樽一杯分のごぼうが一日でなくなっていたことも書かれていますので、ごぼう天が特に人気だったこともうかがえます」とのこと。この出来事をきっかけに、人気のごぼう天は福岡中に広まり、「福岡うどんといえば、ごぼう天」という文化が根付いていったのではないかと考えられています。

原点の味、そして未来へ

80年以上前に閉店した幻の「乙ちゃんうどん」ですが、実はその味を受け継ぐ店が存在します。学芸員さんによると、「戦後になると、うどん店がいくつか出てくる。乙ちゃんうどんの再現を目指したのが『因幡うどん』と言われています」とのこと。

「因幡うどん」が受け継ぐ伝統

先月、原宿に進出したと紹介した「因幡うどん」こそが、「乙ちゃんうどん」の系譜を受け継ぐ店だったのです。福岡に現存する最も古い店舗を40年以上切り盛りしている名物店長・森口由紀子さん(84)に話を伺うと、「元々『乙ちゃんうどん』に創業者が行って、自分もおいしいうどんを皆に食べてほしいということで。こういうかき揚げのうどんを研究して、ずいぶん苦労してこの味が出せたと思う」と語ってくれました。福岡のごぼう天うどんの原点ともいえるこの一杯。丸いかき揚げは時間と共にハラハラと崩れ、ごぼうの風味とだしのうま味が見事に一体となり、独特の味わいを生み出しています。

福岡の地で生まれ、長い歴史の中で育まれた「ごぼう天うどん」文化は、今、東京をはじめとする関東の地で新たなファンを獲得し、その勢力を拡大しています。素朴ながらも奥深い味わいは、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。