資産価値向上と消費低迷の乖離:日本経済の根深い課題とは

株価や不動産価格の回復が注目される一方、私たちの日常生活や購買行動にどのような変化が現れているのか。最新の消費動向調査から、資産価値の改善とは裏腹に消費が伸び悩む現状、そしてその背景にある日本経済の構造的な課題を読み解きます。この消費低迷は、表面的な景気回復のニュースとは異なる、生活者のリアルな感覚を映し出しています。

消費者態度指数の改善、その内訳を見る

2025年5月に内閣府が公表した『消費動向調査』は、日本経済の現状に対する消費者の意識を示す重要な指標です。この調査によると、消費者態度指数は前月の31.2から32.8へと上昇に転じました。この指数は、「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」という四つの意識指標の平均から算出されます。

特に注目すべきは、「暮らし向き」が2.9ポイント増の30.2、「資産価値」が5.1ポイント増の39.2と、大幅な改善が見られた点です。「資産価値」に関しては、前月の急落から大きく回復しており、株式市場の活況や都市部を中心とした不動産価格の堅調さが家計にもプラスに作用している可能性が示唆されます。これは、一部の層において資産の改善が進んでいる兆候と言えるでしょう。

一方、「収入の増え方」は0.8ポイント増の38.3と小幅な上昇にとどまりました。春闘での高い賃上げ率が報じられる中で、依然として物価の上昇に実質的な収入増加が追い付いていないと感じている消費者が多いことを反映しています。

「雇用環境」は1.6ポイント上昇し37.3となりました。製造業や建設業における人手不足が続く中で、非正規雇用から正規雇用への転換支援策や最低賃金の引き上げといった動きが、雇用安定に対する緩やかな期待につながっていると考えられます。

日本の経済動向と消費者の感覚を示すイメージ写真日本の経済動向と消費者の感覚を示すイメージ写真

耐久消費財の買い時判断が示す根強い消費抑制

しかし、消費者態度指数が改善する一方で、実際の消費行動、特に高額な耐久消費財に対する姿勢は依然として消極的です。「耐久消費財の買い時判断」は25.4と、四つの指標の中で最も低い水準にとどまっています。これは、多くの消費者が「今は大きな買い物を控えるべき時期だ」と考えている明確なサインです。

回答構成比を見ると、「耐久消費財は買い時ではない」(「やや悪くなる」+「悪くなる」)と答えた割合は75%を超えており、これは2022年にインフレが顕在化し始めた頃の水準と比較しても高い割合です。このデータは、消費者の間で物価高に対する警戒感が根強く、将来への不確実性から高額消費をためらう傾向が続いていることを強く示唆しています。資産価値の向上というプラス要因がありながらも、それが広く消費行動に結びついていない現状が浮き彫りになっています。

結論:表面的な回復と実体経済の乖離

最新の消費動向調査からは、株式や不動産といった資産価値の回復が消費者の「暮らし向き」や「資産価値」に対する意識を一定程度改善させていることが読み取れます。しかし、それは日本経済全体における消費の本格的な回復にはつながっていません。収入の伸びが物価上昇に追い付かないという実感が、特に耐久消費財のような高額な支出に対する慎重姿勢を強めています。資産を持つ層の一部が恩恵を受ける一方で、大多数の生活者にとって、物価高は依然として大きな負担であり、将来への不安から財布の紐が固くなっています。この資産価値の向上と実体経済、特に個人消費との間の乖離こそが、日本経済が抱える構造的かつ根深い課題を浮き彫りにしていると言えるでしょう。

参考資料

内閣府 消費動向調査 (該当月の公表資料に基づく分析)