ビリオネアのケン・グリフィンは、運用資産が630億ドル(約9.1兆円。1ドル=144円換算)というヘッジファンド「シタデル」の創業者だ。そのグリフィンが6月5日、フォーブスのIconoclast Summit(アイコノクラス・サミット)に登壇し、トランプ政権の経済運営と共和党の新たな税制・歳出法案を痛烈に批判した。
著名な共和党の政治献金者で、前回の選挙でトランプ大統領に投票したグリフィンは、大統領が掲げる法案の「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル(大きく美しい法案)」が、財政赤字と連邦債務を拡大させると非難した。議会予算局も、この法案が今後の10年間で米国の財政赤字を2.4兆ドル(約345.6兆円)押し上げると試算している。
「この法案は間違いなく数兆ドル(数百兆円)の財政赤字を増やす。この法案の問題は、財政の健全化に向けて本当に困難な決断がなされていない点にある」とグリフィンは語った。
トランプが押し進めるこの巨大法案は、先月下院をかろうじて通過し、現在は上院での修正作業が進められている。テスラのイーロン・マスクは、この法案を「法外で醜悪な利益誘導の塊」「おぞましく忌まわしき法案」とまで呼んだことで、トランプの怒りを買い、ふたりの関係は決裂した。
フォーブスの推計で445億ドル(約6.4兆円)の資産を持つグリフィンは、政府の支出に対する懸念を改めて強調した。「何年も経済成長が続いた後の好景気かつ完全雇用の状況下で、GDP(国内総生産)の6~7%もの赤字を出すことは財政的に無責任だ。私たちはいずれ、財政の立て直しに本気で取り組む必要に迫られる」。
彼はまた、議員たちに対し、法案の中で本当に米国のためになる部分は何かを再考すべきだと促した。「たとえば、中小企業向けの税率の引き下げの継続についてだが、これで一体どういう結果を生むつもりなのか?」とグリフィンは述べたが、この発言は、個人事業主やパートナーシップなど、いわゆるパススルー企業への所得控除を拡大し、恒久化する条項を指していると思われる(訳注:パススルー企業とは、法人税が課税されず、その利益が出資者やオーナーといった構成員に直接「通り抜け[パススルー)]、構成員個人の所得として課税される事業体。パススルー課税が適用される事業体)。
彼はさらに、関税やインフレによる物価の上昇を相殺するために消費者向けの減税を追加するのは悪い政策だとも述べた。トランプの法案には、レストランの従業員のチップの収入や残業代、自動車ローンの利息に対する新たな控除が盛り込まれている。