韓国で進歩派の李在明氏が大統領に就任した。昨年12月に尹錫悦大統領(当時)が宣布した非常戒厳に端を発した今回の大統領選挙では、戒厳の責任を負わされた保守派が大敗を喫するとの見通しだったが、蓋を開けてみると各候補の得票率は、李在明氏が約49%、保守系・国民の力の金文洙氏が約41%、保守系・改革新党の李俊錫氏が約8%と、李在明氏の圧勝とはならなかった。
李在明氏がここまで苦戦した理由はいくつかあるが、「尹錫悦は嫌だが、李在明も嫌だ」と公言する人が多いように、俗物と評される人間性も理由の一つだ。韓国人が忌避するほどの大統領が舵取りする新政権は、日本にどのような影響を与えるのだろうか。本稿では安全保障政策にスポットを当てて論考する。
「実用主義」を掲げる李在明大統領
まずは李在明大統領の経歴を見てみよう。1964年生まれの李在明氏は、小学校卒業後すぐに工場に就職しなければならない家庭環境で育った。2度の自殺未遂を経て、奨学金で大学と大学院に進学し、司法試験合格後は人権派弁護士として活躍する。その後、政界に進出して2010年には首都圏の城南市長、18年には京畿道知事に就任し、22年の大統領選挙では僅差で敗れた。
このような経歴から、盧武鉉・文在寅元大統領と同じく市民運動家・弁護士出身の進歩政治家と大きく括られがちだが、李在明氏の金看板は「実用主義」だ。理念重視だった盧・文氏とはこの点が大きく異なり、6月4日の大統領就任演説でも「実用的市場主義政府になる」と明言している。
では、損得勘定を最重視する李在明氏は大統領選挙に際して、どのような公約を掲げていたのだろうか。外交・安全保障では、外交領域の拡大と多角化で新アジア戦略を推進しつつ、北朝鮮の非核化と米韓同盟に基づく抑止力を確保するとしていた。ちなみに、公約に登場する外国は米国と中国、北朝鮮だけで、日本を含めたその他の国への言及はない。
この公約を一読すると、これまでの政権と大きな違いはないように感じる。日本の大手メディアや有識者も、米韓・日韓関係が大きく変わることはないという認識で共通しているようだが、果たしてそうなのだろうか。