前回の記事に続き、備蓄米の放出について深掘りします。東日本大震災や熊本地震のような大規模災害時、多くの人は備蓄米が被災者へ無料で配られたと想像します。しかし、実際は異なる方法が取られていました。政府は備蓄米を「売却」していたのです。
東日本大震災での「売却」事例
東日本大震災では、4万トンもの備蓄米が放出されたが、これは当初から被災者向けの無料提供ではなく、地震や津波で被害を受けたコメ卸業者への売却という形が取られた。当時の報道によれば、農林水産省が入札を実施し、コメ不足から新米並みの高い価格で落札されたと伝えられている。担当記者は「これは最初から被災者用ではありませんでした」「政府は備蓄米を売却したのです」と述べる。
熊本地震、そして公式文書の記載
2016年の熊本地震における備蓄米放出について、当時の報道を詳しく調べても、無料だったかは詳らかではない。さらに、農林水産省の公式文書である「米穀の買い入れ・販売等に関する基本要領」には、被害を受けた地域の知事が農水省から備蓄米を「買い受ける」と明記されており、代金は30日以内に支払う必要があるという条項さえ存在する。一方、「基本要綱」には「米穀を販売する価格は、農産局長が別途定める」という記述もあり、これを使えば買い取り価格をゼロ円にすることも理論上は不可能ではない。熊本地震で政府が被災地に無料で放出したのか、あるいは熊本県に売却したのか、農水省に取材を申し入れたところ、「詳細はお答えできません」という回答だった。
農林水産大臣、小泉進次郎氏。備蓄米の運用方針が議論される中で。
本来の目的は「凶作対策」:入札・随意契約の理由
農水省の公式サイトによれば、備蓄米の適性備蓄水準約100万トンは、10年に1度の不作などに対処するためのもの。つまり、備蓄米制度が本来想定しているのは、記録的な凶作への対策が主目的で、地震などの災害時対応は“特例”とされる。凶作が発生し、備蓄米を放出する際の手順について農水省は「想定される方法は、まずは一般競争入札の実施と随意契約の実施です」と回答した。江藤拓前農水大臣は入札を、小泉進次郎現農水相は随意契約を選んだ実績があり、これが基本とされる。しかし、食料不足時にさえ入札や随意契約という手順は、国民にとって時間や政府の収入という点で疑問が残るだろう。
「無料放出も不可能ではない」の真意
この国民の疑問に対し、農水省は「『備蓄米を売り渡す価格をゼロ円にしてはならない』と書いていないのも事実です」と答えている。続けて、「放出という言葉には無料というニュアンスがあります。緊急時に無料で放出することが不可能というわけではないと思います」とコメントした。
まとめ
備蓄米の放出は、災害時であっても自動的に無料で行われるわけではない。東日本大震災や熊本地震の事例、そして農水省の基本要領からは、売却が基本であることがわかる。ただし、農水省自身が価格をゼロ円にすることも不可能ではないと認めており、今後の有事において、より柔軟な対応が取られる可能性も示唆された形だ。