近年、北海道や東北地方を中心にクマの出没が増え、深刻な被害が社会問題となっています。政府もこの事態を重く見て、10月30日にはクマ被害対策に関する関係閣僚会議を初めて開催し、秋田県からの要請に応じて自衛隊が派遣されるなど、国家レベルでの対応が本格化しています。しかし、このような緊迫した状況の中、北海道積丹町では、クマの駆除活動が予期せぬトラブルにより難航するという異例の事態に陥っています。積丹町議会の海田一時副議長(74)が地元猟友会に対して行ったとされる「パワハラ疑惑」がその原因とされており、地域住民の間に不安が広がっています。
発端:284キロのクマ捕獲現場での衝突
この騒動は、2023年9月27日に積丹町で発生しました。地元猟友会のハンターが出動し、体重284キロにも及ぶ大型のクマが捕獲された現場での出来事が発端です。この日、クマの駆除と運び出し作業のため、10人を超えるハンターが駆けつけました。しかし、現場に現れた海田副議長と、彼に面識のないハンターとの間で言葉の衝突が発生します。ハンターが安全確保のため現場から離れるよう促したところ、海田氏は「誰にモノを言っているか」と反発し、トラブルへと発展しました。
報道によれば、海田副議長はハンターに対し、「こんなに人数が必要なのか。金貰えるからだろ。俺にそんなことするなら駆除もさせないようにするし、議会で予算も減らすからな。辞めさせてやる」といった発言をしたと関係者は証言しています。しかし、海田氏本人はメディアの取材に対し、「『辞めさせてやる』とは言っていない」「僕は悪くない」と自身の非を否定し、猟友会への謝罪を拒否する姿勢を見せています。
 積丹町副議長、海田一時氏の姿。クマ駆除を巡る猟友会とのトラブルで注目が集まる。
積丹町副議長、海田一時氏の姿。クマ駆除を巡る猟友会とのトラブルで注目が集まる。
猟友会の活動停止と住民の不安
海田副議長による一連の発言と謝罪拒否を受け、積丹町の猟友会では意欲を削がれるハンターが続出し、町からのクマ駆除の出動要請に応じられない状況に陥っています。地域社会の安全を担う猟友会の活動が停止に追い込まれるという事態は、積丹町民だけでなく、全国的にも高い関心を集めることになりました。インターネットやSNS上では、命がけでクマの駆除に当たるハンターに対する海田氏の態度を批判する声が相次ぎ、騒動は日に日に過熱。中には海田氏の個人情報を特定しようとする動きまで見られました。
本誌が10月31日に積丹町役場に取材したところ、担当者(以下カッコ内は担当者)は「報道にあるとおり、『言った・言っていない』という風に互いの主張にかなり食い違いが生じており、副議長が謝罪を拒否しているといった報道もあることから、事案についての解決が難しい状況です」と現状の膠着状態を説明しました。双方のやり取りの事実関係については、「両者に聞き取りを行っていますが、映像や音声が残っているわけではないので、正確な情報が把握できていない」とのことでした。町からは双方に対し、「町民の安全を守っていただくことが本来の目的でありますので、猟友会でもそういった理由で任務を受けていただいております。ですので、町民の安全を守ることを優先して通常の活動体制に戻っていただけないかという趣旨の働きかけや協議を続けている最中です」と、活動再開を強く働きかけている状況です。
殺到する苦情と役場職員への負担
このトラブルが全国的に知れ渡ったことで、積丹町役場には苦情の電話が殺到する事態に発展しています。担当者によると、「かなり数えきれないぐらい苦情やご意見が寄せられています」といい、その多さに件数を把握することすらできていない状況で、「常に(苦情の電話が)かかってきている状況」だと語りました。
寄せられる苦情の内容は多岐にわたります。主なものとしては、海田副議長に対し「姿勢を正せ」「謝れ」といった批判の意見、ハンターに対しては「内容はともあれ、町民が困っているから活動を再開してあげてほしい」という活動再開を求める声、そして町に対しても「町の方で動いて収束に向かう方法を早急にとってください」と、速やかな問題解決を求める意見が多数寄せられています。
こうした状況は、役場で働く職員たちに大きな負担を強いています。担当者は、「苦情の電話対応に時間がとられてしまい、平常業務ができない部分はかなりあります。その分を取り戻すため、閉庁時間以降に対応せざるを得ない状況もあります」と、職員の残業増加と業務への支障を明らかにしました。公務員が町民の安全を守るための本来業務に集中できないという事態は、危機管理上の重大な課題と言えるでしょう。
深刻なクマ被害と解決への道筋
積丹町では、10月に入ってからだけでもクマの目撃・痕跡情報が10件(30日時点)報告されており、住民の不安は日増しに高まっています。北海道は今のところ秋田県のように自衛隊への協力要請を検討しておらず、クマ駆除においては引き続き猟友会への依存度が高いのが実情です。
全国紙の社会部記者は、「人身被害が起きてしまってからでは遅いので、一刻も早く海田氏と猟友会の間でトラブルが解決されることが求められています」と指摘します。地域住民の生命と安全を守るためにも、この問題の早期解決が不可欠であることは明らかです。
「謝らない」と断言していた海田副議長ですが、町民の命を守るという公共の責務を前に、その考えを転換させることはあるのでしょうか。積丹町のクマ駆除体制の麻痺は、単なる個人間のトラブルを超え、地域社会全体の危機管理能力が問われる事態へと発展しています。
 
					




