車のローダウンと車検基準:最低地上高と合法的な改造について解説

一部の自動車愛好家の間で、車高を低くする「ローダウン」は根強い人気を誇っています。車のスタイリングをスポーティに見せたり、走行性能に変化を与えたりするカスタムとして広く知られています。しかし、ローダウンは道路運送車両法に基づく保安基準に適合している必要があり、基準を満たさない場合は車検に通らないだけでなく、違法改造と見なされる可能性があるため、十分な注意が必要です。

カスタムされた低い車高の車両:ローダウンのイメージカスタムされた低い車高の車両:ローダウンのイメージ

車の最低地上高に関する保安基準

自動車の車高、特に最低地上高については、国土交通省が定める「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」第163条に明確な基準が示されています。これによると、自動車の地上高(車両の最も低い部分と地面との間の距離)は、原則として9センチメートル以上でなければならないと定められています。この9センチメートルという基準は、カスタムの有無に関わらず、日本の公道を走行する全ての車両に適用される基本的なルールです。

また、車検証に記載されている車両の最低地上高から±40ミリメートルの範囲内での変更であれば、多くの場合、追加の手続きなく車検に適合するとされています。ただし、これはあくまで「車検証記載の値からの増減」に関する一般的な目安であり、最終的には最低地上高が9センチメートルを確保していることが絶対条件となります。たとえ車検証記載値から40ミリ以内の変更であっても、結果として最低地上高が9センチメートル未満になる場合は、保安基準不適合となります。

ローダウンを合法的に行うための手続き:構造等変更検査

車高の変更が車検証に記載された最低地上高から±40ミリメートルの範囲を超える場合、または最低地上高が9センチメートル未満になる可能性がある場合は、原則として運輸局や自動車検査登録事務所で「構造等変更検査」を受ける必要があります。これは一般的に「改造車検」と呼ばれる手続きで、改造の内容が国の定める保安基準に適合しているかどうかが検査されます。

この構造等変更検査に合格し、車検証の内容(最低地上高など)が変更後の数値に合わせて更新されれば、そのローダウンは正式に合法的な改造として認められます。違法改造車とならないためには、適切な部品の使用と、必要に応じた構造等変更検査の実施が不可欠です。

ローダウンの主な方法と技術的な側面

ローダウンを実現するための一般的な方法としては、「ローダウンスプリングへの交換」と「車高調整式サスペンション(車高調)の装着」があります。

ローダウンスプリングは、車両の重量を支えるコイルスプリングを、純正品よりも短いものに交換する方法です。これにより物理的に車高が下がりますが、純正ダンパー(ショックアブソーバー)との相性が重要になります。スプリングレート(バネの硬さ)やストローク量が変わるため、乗り心地や操縦安定性が純正とは異なり、場合によってはダンパーも合わせて交換することで、よりバランスの取れた性能を得ることができます。

一方、車高調はスプリングとダンパーが一体となったパーツで、車高を広範囲かつ細かく調整できるのが特徴です。製品によっては減衰力(ダンパーの硬さ)も調整可能で、好みに合わせたセッティングが可能です。ただし、車高調を使用した場合でも、最低地上高が9センチメートルを確保し、必要であれば構造等変更検査を受ける義務は変わりません。

自動車メーカーの中には、車両のカスタマイズ需要に応える形で、スポーツパーツとして標準仕様よりも車高が下がるコイルスプリングなどを設定しているケースもあります。例えば、SUBARUの子会社であるスバルテクニカインターナショナル(STI)は、WRX STI向けに約10ミリメートル車高が下がるコイルスプリングをラインアップしており、メーカー純正に近い品質でローダウンを実現する方法として選択肢の一つとなっています。

まとめ:合法的なローダウンのために

車のローダウンは魅力的なカスタムですが、日本の公道を安全に走行するためには、法律で定められた最低地上高9センチメートル以上の基準を厳守することが最も重要です。車検証記載値からの±40ミリメートルという目安はありますが、最終的には9センチメートル基準をクリアする必要があります。基準を超える変更を行う場合は、構造等変更検査を適切に受けることで、違法改造となるリスクを回避し、合法的にカスタムを楽しむことができます。ローダウンスプリングや車高調といったパーツを選ぶ際は、性能だけでなく、保安基準適合性も必ず確認することが、安全で合法的なカーライフを送る上で不可欠です。