物価高対策「所得制限なし給付金」専門家が分析する経済効果と代替案

自民、公明両党が参院選の公約として検討している物価高対策の給付金について、所得制限を設けず全国民に1人あたり現金2万円、さらに住民税非課税世帯には2万円を上乗せする方向で調整が進められていると報じられています。この与党案について、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏が経済効果を試算し、その妥当性や代替案を分析しています。

与党案の給付額とその対象

朝日新聞の報道によると、検討されている給付案は以下の通りです。

  • 対象:全国民
  • 給付額:1人あたり現金2万円
  • 上乗せ対象:住民税非課税世帯
  • 上乗せ額:2万円(計4万円)
  • 所得制限:なし

給付金総額と経済効果の試算

木内氏の試算によると、この給付案の総額は約2兆7,249億円に上ります。内訳は以下の通りです。

  • 全国民への一律2万円給付:総務省の5月時点の人口約1億2,334万人に対し、総額約2兆4,668億円。
  • 住民税非課税世帯への2万円上乗せ:2021年の国民生活基礎調査での非課税世帯割合23.7%と2023年の全世帯数5,445.2万から推計される約1,290.5万世帯に対し、総額約2,581億円。

この給付金総額による実質GDPの押し上げ効果は、1年間で0.12%と計算されています。

経済専門家、NRI研究員 木内登英氏の肖像写真経済専門家、NRI研究員 木内登英氏の肖像写真

消費税減税との比較:物価高対策としての妥当性

この給付金の規模は、消費税率を1%引き下げた場合の実質GDP押し上げ効果(1年間で0.12%)と概ね同等と試算されています。野党は同じお金を使うなら消費税減税の方が効果があるといった指摘をする可能性もあります。

しかし、物価高対策の目的は景気浮揚よりも、物価高による国民生活の圧迫や痛みをどれだけ和らげるかにあります。消費税減税は一時的な措置としても元に戻すのが難しく、恒久減税になりやすい弊害があります。恒久減税は税収基盤を損ない、財政環境を悪化させ、国民負担増加や経済の潜在力低下を招く可能性があります。消費税率全体を2%引き下げたり、食料品などの軽減税率を0%にしても、1年間の実質GDP押し上げ効果は+0.43%程度に留まり、2年目以降は効果が剥落するなど、短期間の効果しか期待できません。

これらの点を踏まえると、物価高から国民生活を守る施策としては、野党が主張する消費税減税よりも、与党の給付金の方が妥当だと木内氏は考えます。

NRI試算による物価高対策給付金の経済効果:実質GDP押し上げを示す図表NRI試算による物価高対策給付金の経済効果:実質GDP押し上げを示す図表

より効果的な支援策への提言

ただし、木内氏は、給付対象を住民税非課税世帯などの低所得者層に絞るべきだと提言しています。物価高でも生活に余裕のある世帯や個人にまで給付する必要はないという考えです。

住民税非課税世帯への給付のみに絞った場合、同じ総額(約2兆7,249億円)でも、非課税世帯あたり約21万円を給付することが可能となります。これにより、物価高で最も苦しむ低所得層をより強く、集中的に支援することができると分析しています。

物価高対策としての給付金は消費税減税より妥当である一方、支援の必要性が高い低所得者層に限定することで、同じ財源でより効果的な支援を実現できるというのが専門家の見解です。


(参考資料)
「全国民に2万円、住民税非課税世帯に2万円上乗せ 与党の給付案判明」、2025年6月11日、朝日新聞
木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト)
NRIウェブサイト【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】掲載記事