次世代太陽電池として注目される「ペロブスカイト太陽電池」の技術開発において、韓国は世界最先端の研究成果を上げてきた。しかし、その商用化段階で大きな壁に直面しており、日本や中国が国家主導の巨額投資で猛追している現状が明らかになった。韓国化学研究院光エネルギー研究センター長のチョン・ナムジュン氏は、韓国の高い研究力と商用化の遅れについて言及している。
ペロブスカイト太陽電池は、既存のシリコン系太陽電池とは異なり、低照度環境下でも高い光電変換効率を維持できるほか、軽量で柔軟性があり、曲面などへの設置も可能である点が大きな特徴だ。これらの利点から、建物一体型太陽光発電(BIPV)やウェアラブルデバイスなど、幅広い分野での応用が期待されている。韓国は、この革新的な素材に関する基礎技術開発で世界をリードする研究者を多数擁している。
韓国のペロブスカイト太陽電池研究は黎明期から世界を牽引してきた。特に、成均館大学のパク・ナムギュ教授は、固体型ペロブスカイト太陽電池を世界で初めて開発したことで知られている。また、2023年にはチョン・ナムジュン研究チームが200cm²を超える大面積セルで18.24%という高効率を達成し、世界記録を樹立。その後、一度は中国に記録を抜かれたものの、20.6%という新たな記録を打ち立て、再び世界一に返り咲いた。これは韓国の技術力の高さを明確に示す成果だ。
ペロブスカイト太陽電池の研究開発が進められている韓国化学研究院内の実験室
しかし、「K-ペロブスカイト」と呼ばれる韓国の技術は、試作段階から実際の量産に向けた商用化段階で困難に直面している。現在、韓国内で試作可能な最大サイズは第2世代ディスプレイ基板(370mm×470mm)程度にとどまっており、本格的な大型化には至っていない。商用化には、大面積のセルを安定して多数製造し、製造プロセス上の問題点を洗い出す必要がある。コサンテック社のユ・ジョンスCTO(最高技術責任者)は、大型化には装置費用や材料費が莫大にかかり、研究室レベルの研究開発予算では対応が不可能だと指摘する。
一方、海外ではペロブスカイト太陽電池の商用化に向けた国家主導の投資が活発化している。米国エネルギー省は年間3億ドルを投じ、日本も積水化学工業などが国家プロジェクトとして巨額の投資を決定し、政府も同等の支援を行うマッチング形式を採用している。中国政府も第14次5カ年計画に基づき、太陽光分野への支援を強化しており、これらの国々は技術の量産化と市場投入を加速させている。韓国は、こうした競争環境の中で、研究成果をいかに迅速に商用化につなげるかが問われている。
この状況に対し、チョン・ナムジュン氏は、韓国は効率的な研究開発と迅速な商用化で勝負すべきだと強調。今年からは特に量産技術の確立に注力しているという。その鍵となる技術として挙げられているのが「インクジェットプリンティング技術」だ。ユ・ジョンス氏によれば、太陽電池生産において、ナノレベルの薄膜をいかに均一に印刷できるかが重要であり、インクジェット方式はディスプレイ製造で既に実績があり技術的信頼性が高い。関連産業基盤も整備されているため、大量生産に最適な技術だと説明している。韓国は、このインクジェット技術を軸に、研究開発で培った世界トップクラスの効率を維持したまま、商用化への道筋を切り開こうとしている。
韓国のペロブスカイト太陽電池技術は研究面で世界の最先端を走っているが、商用化に向けた大規模投資や量産技術の確立において、日本や中国といった競合国に先行を許しているのが現状だ。インクジェットプリンティング技術を活かした量産体制の構築が、韓国がこの次世代エネルギー市場で競争力を維持し、世界的なリーダーシップを確立するための重要な鍵となるだろう。今後の開発動向と各国の競争の行方が注目される。
KOREA WAVE/AFPBB News via Yahoo News Japan