イスラエルは13日、イラン国内の複数の核関連施設や弾道ミサイル開発拠点を攻撃した。この攻撃により、イラン最高指導者直轄の精鋭軍事組織であるイラン革命防衛隊のサラミ司令官が死亡したことが、ロイター通信によって報じられている。首都テヘランや中部のナタンツなど、イラン国内の複数地点で爆発が発生した。イスラエルの行動に対し、イラン側が大規模な報復攻撃に出る可能性が極めて高く、地域における大規模な衝突へのエスカレーションが強く懸念されている。
攻撃の詳細とイラン国内の被害
ロイター通信によると、イスラエル軍による攻撃の標的となったのは、ナタンツにある主要なウラン濃縮施設を含め、数十カ所に及んだ。これらの標的には、イランの核開発計画や弾道ミサイル開発に関与する科学者や関係者も含まれていたという。また、テヘランにあるイラン革命防衛隊の本部自体も直接攻撃対象となったことが伝えられている。
イランのメディア報道によると、首都テヘランでも激しい爆発が連続して発生した。市内の様々な場所から立ち上る巨大な煙や、集合住宅の一室が破壊された惨状などが報じられている。攻撃による犠牲者も出ており、女性や子供を含む複数の死者が確認されたとの情報もある。今回の攻撃の影響で、テヘランの国際空港では安全上の理由から、航空機の離発着が全面的に停止される事態となった。
イラン首都テヘランで発生した爆発から立ち上る黒煙。イスラエルによるイラン攻撃に関連。
イスラエル側の表明と米国の反応
イスラエルのネタニヤフ首相は13日の国民向け演説で、今回の軍事作戦がイランの核・ミサイル開発計画の「心臓部」を直接標的にしたものであることを明言した。首相は、今回の攻撃を「イスラエル史において決定的な瞬間だ」と強調するとともに、イランに対する一連の軍事作戦が今後数日間継続される可能性を示唆し、国民に警戒を呼びかけた。
これに先立ち、イスラエルのカッツ国防相は、イランからの報復攻撃が差し迫っているとの予測に基づき、イスラエル全土に対して緊急事態を宣言した。国内各地では空襲を知らせるサイレンが鳴り響き、厳戒態勢が敷かれた。イスラエル軍当局者は攻撃開始直後、ロイター通信の取材に対し、今回の作戦を正当化する理由として、イランが「核兵器製造のための秘密計画を急速に進めており、わずか数日以内に15個もの核兵器を作るのに必要な材料を既に確保している」と強く主張した。
一方、米国務省のルビオ長官は声明を発表し、今回のイスラエルによるイラン攻撃はイスラエルの「単独による軍事行動」であり、「米国は一切関与していない」と明確に強調した。ルビオ長官の説明によれば、イスラエル側は米国に対し、今回の行動は「自衛のために不可欠な措置であった」と説明を行ったという。米国は伝統的にイスラエルの重要な後ろ盾ではあるものの、今回の攻撃自体に対する賛否の表明は避け、イラン周辺に展開する米軍基地や人員が標的となる可能性を懸念し、イランに対し「米国の施設や人員を決して標的とすべきではない」と強く警告した。
背景にある核開発問題と地域情勢の緊迫
イランの核開発計画を巡っては、トランプ米政権が4月以降、断続的にイラン側と交渉を続けてきた経緯がある。米国はイランの核兵器保有を断固として認めない姿勢を貫いてきたが、イランが核開発の制限を受け入れる見返りに、米国による対イラン制裁の一部が解除される可能性も以前から示唆されていた。今月15日には、仲介国であるオマーンにおいて、両者間の6回目の協議が開催される予定だったが、今回のイスラエルによる攻撃によって、この重要な交渉の今後の行方は極めて不透明な状況に陥った。
また、国際原子力機関(IAEA)の理事会は12日、イランがIAEAとの保障措置(核査察)協定に違反しているとして、イランを非難する決議を採択したばかりだった。これに対し、イラン側は猛烈に反発し、新たなウラン濃縮施設を稼働させると公に表明していた。イスラエルは、イランが核兵器を開発している可能性に対し、非常に強い警戒心を抱いており、トランプ米大統領も攻撃の前日である12日には、イスラエルがイランを攻撃する可能性について「十分に起こり得る」との見解を示唆していた。
イスラエルとイランは長年にわたり、地域における敵対関係を継続してきた。特に、2023年10月にパレスチナ自治区ガザ地区でハマスとイスラエルの間で戦闘が開始されて以来、両国間の対立はさらに深刻化していた。イランは、2024年4月と10月に発生したイスラエルによるシリア国内のイラン大使館関連施設への空爆などに対する報復として、イスラエル領土内にミサイル攻撃を実施しており、これに対しイスラエル側も限定的な反撃を行っていた。
衝突拡大のリスクと今後の見通し
イスラエルによるイラン国内への広範な軍事攻撃は、イランの革命防衛隊司令官の死亡という重大な結果をもたらし、中東地域の緊張を一気に高めている。米国はイスラエルの単独行動として距離を置く姿勢を示したが、イランが大規模な報復攻撃に踏み切る可能性は高く、既に緊迫している中東情勢が、制御不能な全面衝突へと発展するリスクがかつてないほど高まっている。核開発問題を巡る外交交渉も暗礁に乗り上げ、地域の安定は危機的な状況に瀕している。
ソース
- ロイター通信
- AP通信
- イランメディア報道
- イスラエル首相府
- 米国務省
- イスラエル軍当局者
- 国際原子力機関(IAEA)