【中東見聞録】IS、新指導者を発表 カリフの下での「ジハード」は不変





米国防総省が10月30日に公表したバグダディ容疑者の写真。ISはその後、後継者を選出したと発表し、ジハード継続の意思を示した(AP)

 イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の指導者だったアブバクル・バグダディ容疑者が米特殊部隊の急襲で死亡したことを受け、ISは10月31日、「アブイブラヒム・ハシミ・クライシ」なる人物が後継者に選ばれたと発表した。現時点でその人物像は、国籍を含め、まったくといっていいほど分かっていない。ただ、少なくともこの発表からISは、「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)」制のもとでの世界支配という基本イデオロギーを放棄していないことが見てとれる。(前中東支局長 大内清)

 アブイブラヒムは、アラビア語で「イブラヒムの父」という意味だ。アラブ世界では、本名とは別に、「~の父」「~の母」といった通り名を用いることが多い。たとえば、かつてゲリラとして名を馳せたパレスチナ解放機構(PLO)のアラファト元議長は「アブアンマール」と名乗った。現議長のアッバス氏は「アブマーゼン」だ。

 ISでもメンバーの多くが、自身の信条を表したり、身元の特定を避けたりするためにこうした通り名を用いている。死亡したバグダディ容疑者が名乗った「アブバクル」がそうであったように、新指導者の「アブイブラヒム」も本名ではないだろう。

 次に「ハシミ・クライシ」。これは、預言者と同じアラビア半島の名門「クライシュ族」の有力一族「ハーシム家」の血筋である(と主張している)ことを意味する。イスラム法学では、クライシュ族出身であることがカリフの要件の一つと定められているから、新指導者の正統性を印象づけようとしているのだと考えられる。

 ただし、カリフの代替わりにあたっては、その権威が後継者へ自動的に引き継がれるのではなく、信徒に力を認めさせ、「忠誠の誓い」を受ける必要があるとされる。

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