「日本で大災害が起こる」とウワサされている7月5日が近づいている。SNSなどを介して台湾や香港を含む広範囲に行きわたったこのウワサに触れ、実際に何かが起こるのではないかと不安を感じている人もいるだろう。この不安、実は半分当たっていると言える。それは、予言そのものの的中ではなく、人々の心理に予言が与える影響に起因する。今回の記事では、ネット上で広がる「7月の大災害予言」がもたらしうる現実的な影響について、社会心理学の観点から深掘りする。
ネット上で拡散する「7月大災害予言」に関するイメージ
ネットを騒がせる「7月の大災害予言」とその背景
ネット上では、小惑星衝突説から富士山噴火による首都圏機能停止説まで、さまざまな「7月5日大災害」のシナリオが出回っている。まるで、古今東西の災害予言を並べたビュッフェのような様相だ。多くの人は、これらの予言が科学的根拠に基づかないことを理解しており、エンターテインメントとして消費している側面が強いだろう。発生確率が科学的に予測されている地震や水害などの自然災害は、予言とは関係なく起こりうるという前提も共有されているはずだ。しかし、だからといって予言が人々の心理や社会に全く影響を与えないと考えるのは誤りだ。
科学的根拠の薄い予言がもたらす現実的な影響
予言の当たり外れそのものよりも、その予言が社会に混乱をもたらす心理的なメカニズムにこそ注意を払うべきである。懸念される主要な点は二つある。一つは、予言が人々の行動を誘発し、結果としてその予言が現実化する可能性を高める「予言の自己成就(自己成就的予言)」だ。もう一つは、予言が外れた際に信奉者の間で生じる「予言の失敗による認知的不協和」とその解消プロセスだが、今回は特に「予言の自己成就」に焦点を当てる。
「予言の自己成就」メカニズムの解説
「予言の自己成就」(Self-fulfilling prophecy)は、社会学者のロバート・K・マートンが提唱した概念である。人々が「ある出来事が起こるだろう」という予言を信じ、その実現を目指すかのような特定の行動をとることによって、当初は根拠が薄かったその予言が現実となる確率が高まる現象を指す。マートンは、1930年代のアメリカ大恐慌時代に起こった銀行の取り付け騒ぎを例にこの概念を説明した。
経営状態に問題がなかったにも関わらず、「ナショナル銀行が破産する」というデマが広まった。このデマを信じた人々がパニックに陥り、一斉に預金を引き出そうと銀行に殺到した結果、銀行は実際に経営破綻に追い込まれてしまったのだ。つまり、予言(デマ)そのものには根拠がなくても、それを信じた人々の行動が、予言された結果を招いてしまったのである。
デマや予言が人々の行動をどう変えるか
ナショナル銀行の事例が示すように、まったく根拠のないウワサや予言であっても、それが人々に特定の行動を誘発する力を持つことは明らかだ。現代社会においても、SNSなどを介して拡散される情報は、時に冷静な判断を麻痺させ、集団的な行動を引き起こす可能性がある。例えば、記憶に新しいコロナ禍におけるトイレットペーパーの買いだめ騒動も、デマがパニックと品薄を引き起こした典型的な例と言えるだろう。
今回の「7月大災害予言」においても、仮に予言通りに大災害が発生しないとしても、ウワサを信じた人々による根拠のないパニック行動(例えば、特定の物資の買い占めや、デマに基づく危険回避行動など)が発生し、それが社会的な混乱を招く可能性は否定できない。これは、予言が「当たる」こととは異なるが、予言がもたらす「現実的な影響」として、十分な注意が必要な事態である。
結論:予言そのものより心理的影響への備えを
「7月に日本で大災害が起こる」という予言そのものの信憑性は低いと考える人が多数派だろう。しかし、その予言がネット上で広く拡散され、人々の間に不安を煽ることで、「予言の自己成就」というメカニズムを通じて現実的な社会混乱を引き起こすリスクは存在する。この種のデマや予言に対しては、その内容の真偽を冷静に見極めるリテラシーを持つこと、そして根拠のない情報に基づくパニック行動を避けることが、個人としても社会としても重要となる。重要なのは、予言が当たるかどうかではなく、予言が人々の心理と行動に与える影響を理解し、不必要な混乱を防ぐための心構えを持つことである。
参考文献
- ヤフーニュース / 東洋経済オンライン: 「7月に日本で大災害が起こる」「想定をはるかに超える壊滅的な…」――ネット上を騒がせる“大災難予言”が嘘とも言い切れない理由
https://news.yahoo.co.jp/articles/1dd6f4b61c5ce5ef8620b9535ab1b7e501be8055
(上記は記事の元となる情報源への参照であり、記事内容を直接引用したものではありません)