丹下健三設計「船の体育館」解体巡り新局面:民間活用案と法的措置で香川県に協議要求

世界的な建築家、丹下健三が手掛けた「つり屋根構造」の旧香川県立体育館(高松市)の解体計画を巡り、民間有志団体「旧香川県立体育館再生委員会」(長田慶太委員長)が26日、高松市で2回目の記者会見を開き、公費負担を求めない活用案を改めて提示した。県が進める解体工事業者の入札手続きの中止と、再生委員会との協議に応じるよう強く求めた。さらに、県との対話を実現するため、建物の解体差し止めを求める仮処分申し立てや、住民監査請求といった法的手段も辞さない構えを表明し、事態は新たな局面を迎えている。

解体決定と県の入札手続き

「船の体育館」の愛称で親しまれてきた旧県立体育館は、その独特な和船を思わせる造形が特徴で、日本最初期のつり屋根構造の建造物の一つとして知られる。しかし、老朽化や耐震性不足を理由に香川県は解体を決定し、2025年3月には約10億円の解体工事費を盛り込んだ予算案が県議会で可決された。これに対し、再生委員会は7月に民間資金による耐震改修とホテル事業などへの活用案を提案。だが県は8月5日、「解体手続きの先延ばしはできない」として、解体工事業者を決める入札を公告した。入札期間は9月2~4日で、予定価格は約9億2041万円、工期は2027年9月17日までとされている。

旧香川県立体育館の外観。丹下健三設計のつり屋根構造が特徴。旧香川県立体育館の外観。丹下健三設計のつり屋根構造が特徴。

「倒壊の危険なし」専門家が県の主張に疑問

再生委員会は記者会見で、建物の耐震性に関する専門家の新たな見解や、より具体的な事業計画を提示し、県の解体論拠に疑問を呈した。東海大の田中正史准教授の評価に基づき、体育館はプレストレストコンクリート構造であるため、大地震時にもコンクリートの剥落や倒壊を抑止可能であると指摘。また、つり屋根構造についても、小さな板が並んで形成されているため、留め具が壊れても屋根全体が崩壊する懸念はないと説明した。過去の耐震診断では簡略化された構造モデルが用いられていたが、現在の精密な構造解析により、効果的かつ合理的な耐震補強が可能だという。さらに、元日本建築学会会長である日本大名誉教授の斎藤公男氏がオンラインで登壇し、「下部構造の補強で十分に今後とも使える。液状化の問題を考えても倒壊はあり得ない」と強調した。

民間資金による具体的活用案と政府支援の可能性

事業計画では、投資ファンドからホテル運営、まちづくりまで手掛ける「Staple(ステイプル)」(広島県尾道市)の岡雄大代表取締役が、出資・事業参加に確定的な意向を示した。1棟ホテル案の場合、60~70部屋を想定し、客室平均単価5~6万円、稼働率7割で、飲食などの売り上げを含め、初期投資約60億円に対し、3年目以降は年間純収益4.5億円を見込み、「不動産投資として十分な利回り」を説明。

また、文化庁文化審議会で建築文化ワーキンググループ(WG)座長を務める工学院大総合研究所の後藤治教授は、WGで文化財以外の民間再生建築に対しても、文化財と同様の補助や税制優遇などの制度化を検討中であることを紹介。旧県立体育館の解体が中止されれば、「国内初の支援対象モデルになるよう働きかける」と表明した。後藤教授は、「議会の議決が見直されるのは、新しい情報が明らかになったとき。今回の構造計算や建築文化振興に関する国の支援検討も、いずれも新しい情報だ」と述べ、県の再考を促した。

法的手段と住民の訴え

再生委員会の長田委員長は、県との協議を実現するために法的手段を取ることを改めて表明。オンライン署名も4万筆を超えており、保存を求める住民の声が高まっていることを示した。委員会は、解体差し止めの仮処分申し立てや住民監査請求を通じて、県の税金使用の適切性を問い、対話の窓を開くことを目指している。

県側のこれまでの見解と旧体育館の歴史

旧香川県立体育館は、同年に完成した同じく丹下建築の代々木競技場(東京都渋谷区、国重要文化財)と並び、日本最初期のつり屋根構造で、柱のない大空間を実現した画期的な建造物である。しかし、2014年には耐震改修工事の入札が不調に終わり、閉館。2021年の「サウンディング型市場調査」でも民間事業者から活用・改修案が寄せられたが、県の財政支援なしでは持続的な運営が難しいとして、採用には至らなかった。県と県教委は2023年に「苦渋の決断」として解体方針を表明。

再生委員会は2025年7月、「解体という判断の前提条件が変わった」として再検討を求めたが、県側は入札手続きに入り、「(提案では)旧県立体育館を所有し活用する具体的な主体や計画等は明確になっておらず、(解体手続きの)先延ばしはできない」「安全性の確保のためのやむを得ない判断だ」との見解を示し続けている。

結論

丹下健三氏が設計した旧香川県立体育館の解体計画は、民間からの強力な保存・活用提案と、それに対する県の姿勢が衝突し、新たな法的・社会的な議論を巻き起こしている。再生委員会が示した専門家の詳細な耐震評価、具体的なホテル事業計画、そして政府の新たな文化支援制度の可能性は、県が解体決定を見直す上で重要な「新しい情報」となり得る。今後、法的手段を通じて県との対話の扉が開かれるのか、あるいは入札手続きが予定通り進行するのか、文化遺産の保存と地域の未来を巡るこの動向が注目される。

参考文献

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