夏の参議院選挙へ向けた出馬会見が、突如として過去の不倫報道に関する釈明・謝罪の場となり、会見の翌日には党からの公認内定が取り消されるという前代未聞の政治劇が展開された。国民民主党が比例代表候補として擁立を内定していた山尾志桜里元衆議院議員(50)に起こったこの事態は、日本の政界に大きな波紋を広げている。なぜ、このような結末を迎えたのか、その背景にある要因を探る。
山尾志桜里氏が参院選出馬会見で報道陣からの厳しい質問に応じる様子
過去の不倫報道と釈明会見の顛末
事の発端は、山尾氏が6月10日に国会内で開いた参院選出馬会見だ。2時間半に及んだこの会見は、本来の出馬意欲表明の場であるにも関わらず、大半の時間が2017年に『週刊文春』が報じた既婚男性弁護士とのW不倫疑惑に関する質問に費やされた。
8年前、山尾氏は報道に対し「そのような事実はない」「男女の関係ではない」と一方的に説明し、質疑応答を避け、会場を後にしていた。今回の会見は、参院選を前にした説明責任を果たす機会となるはずだった。
会見冒頭、山尾氏は「8年前の当時の自分には大変、おごりがあったと思います」「ご指摘を受けた時の自分の対応、未熟だったと心から反省しています」と立ちながら陳謝した。しかし、謝罪と反省の言葉を繰り返す山尾氏に対し、質疑応答の冒頭から不倫関係の事実確認を求める質問が相次いだ。
山尾氏は涙を浮かべ、謝罪の言葉を口にしながらも、「今、その件について新たにお話をさせていただくことはご容赦いただきたい」「関係者に迷惑がかかるので私の口から言葉を紡ぐことはできない」と繰り返し、事実関係の明言を避けた。要領を得ない返答に苛立った報道陣からの厳しい質問が続くと、山尾氏は「8年前に申し上げていることはそのまま事実で、新しく言うことはご容赦いただきたい」と同じフレーズを繰り返し、最後は「すみません。申し訳ありません。お話できません」とうつむいて謝罪。会見は説明責任を果たすどころか、質疑応答の体をなさないまま進んだ。この「涙目で言い訳」とも取れる対応が、その後の展開を決定づけた。
国民民主党内の動揺と支持率への影響
山尾氏を擁立した国民民主党は、近年ネット世論を背景に党勢を拡大してきた政党である。昨年11月に『FLASH』が報じた代表の玉木雄一郎氏(56)の不倫報道も乗り越えた経験を持つ。
しかし、5月14日に国民民主党が山尾氏の擁立を発表すると、党支持率は下落傾向を見せ、SNSなどではかつてないほどの批判が広がった。国民民主党の候補者の一人は匿名を条件に、党内の動揺を次のように語っている。
「昨秋の衆院選で4倍増の28議席と躍進後も勢いは止まらず、今年の1月から4月に投開票された地方選挙でもトップ当選が続いていた。しかし、山尾氏らが5月14日に公認候補として発表されると批判が広がり、18日投開票の埼玉県和光市議補選では公認候補が敗北。『山尾ショック』として動揺が広がった。山尾氏が必死になって弁明しようとすればするほど支持率が落ちていく。参院選もこのままでは、と危惧されていた」
共同通信の世論調査でも、4月に政党支持率18.4%あったものが、5月には13.2%と急落。参院選の告示日まで1ヵ月半を切る状況で、党勢の回復は見込めない状況だった。
比例候補間の競争と山尾氏の発信
参院比例代表選挙は非拘束名簿方式であり、投票用紙に政党名か候補者名で投票できる。候補者は自身の名前を書いてもらう必要があり、全国比例では政党内の候補者同士がライバルとなる。
「参院選比例は全国が1つの選挙区のため、大きな組織内の候補者でなければ知名度が重要になる。国民民主の比例当選ラインは『5万票から10万票』と目されている。そのため、自民党の杉田水脈氏(58)のように、炎上してでも名前を広げたがる候補者も少なくない。全国から10万票近く集めるには、エッジの効いた発言で耳目を集める手法が取られることもあり、中には党の見解とは異なる発言も出てくる」(同候補者)
山尾氏は5月15日、Xに「女系天皇の議論を避けつつ、女系天皇の選択肢を排除する進め方は間違っています」と投稿した。これは国民民主党の「男系継承」の考えとは異なり、党幹部が火消しに追われる経緯があった。
「女系天皇に言及したのは、愛子内親王(23)への継承を求める層が一定数おり、そこにリーチしたいのだろう。しかし、得票目当ての発言であることは見え透いていた。公認発表の翌日で注目が集まるのを分かった上でのポストであり、発信力があるだけに、比例候補の間では『山尾氏は自分が当選すればいいのか』と批判が集まっていた」(前出の候補者)
2017年の不倫疑惑報道当時、爽やかなブルーのスーツ姿で会見に臨む山尾志桜里氏
公認取り消しの決定とその背景
6月11日、国民民主党は両院議員総会後、山尾氏の公認内定取り消しを発表した。玉木雄一郎代表は「有権者や全国の仲間から十分な理解と信頼が得られないと判断した。批判は真摯に受け止める」と説明した。
会見を開きながらも謝罪に終始し、説明責任を果たせなかった山尾氏。山尾氏自身に発信力があることで、想像以上にSNS上で批判が拡大した。ネット世論を重視し、それによって支持を伸ばしてきた国民民主党にとって、その中心で批判を集める候補者を擁立し続けることは困難だった。党が山尾氏を「切り捨てる」のは時間の問題だったと言える。
国民民主党の衆議院議員は今回の騒動について「山尾氏の出馬会見に党幹部の同席はなく、一人での会見だった。つまりそういうことだ」と語った。一連の騒動に関するコメントを得るため、JR中央線・吉祥寺駅近くに新設された山尾氏の事務所を訪ねたところ、既にシャッターがおろされており、郵便受けはテープで塞がれていた。
商店街の関係者は「1週間前に雑貨屋の倉庫を突貫工事で事務所にしたものの、11日夕方には1階のポスターも剥がし、シャッターがおろされた」と話している。
12日、山尾氏は党に離党届を提出したことを発表した。吉祥寺駅前で参院選比例候補の須藤元気氏(47)と共にビラ配りをしていた国民民主党の都議会選挙候補(50)は「可能であれば再チャレンジして欲しかった…」とつぶやいた。
急進している国民民主党にとって、今回の騒動は今後の人材戦略における懸念材料となる可能性を孕んでいる。
まとめ
山尾志桜里氏の参院選公認取り消しは、過去の不倫報道とその後の不十分な釈明対応が、インターネット上の批判を通じて党全体の支持率低下を招き、結果的に党からの信頼を失ったことが直接的な原因となった。特にネット世論を基盤とする国民民主党にとっては、世論の反発を無視することはできず、公認取り消しという異例の判断に至った。会見での山尾氏の対応は、説明責任を求める報道陣や国民の期待に応えるものではなく、かえって不信感を増幅させた形だ。この一連の騒動は、政治家にとって過去のスキャンダルへの対応がいかに重要であるか、そして現代社会におけるSNSやネット世論の影響力の大きさを示す事例となった。国民民主党にとっては、党勢拡大の途上で人材育成とリスク管理の重要性を改めて突きつけられる結果となった。