日本の国民医療費は約48兆円。自民と連立を組む維新は医療費削減で保険料負担の引き下げを求めるが、開業医の利益団体である「日本医師会」は猛反発。診療報酬改定率の決定を控え、高市首相は決断を迫られている。
「わが国で最も分厚いと思われていたガラスの天井の一つを打破するという偉業を達成した人物として、まさに歴史に名を残すことになると思います」
女性初の総理大臣が誕生した翌10月22日、日本医師会(日医)の定例会見で、松本吉郎会長は高市早苗首相に最大限の賛辞を贈り、こう付け加えた。
「高市総理の地元である奈良では、奈良県医師会の安東範明会長が『高市早苗議員を内閣総理大臣にする奈良の会』の会長を務めておられます。
安東先生は記者会見等で、診療報酬は実質的なマイナス改定が続いていることで、医療機関の経営が危機的な状況にあることを強く主張されておられます」
日医には歯科医を除く医師の半数余りの約17万8000人が加入する。開業医と勤務医がほぼ半々だが、役員ポストのほとんどは開業医が占めており、実質的に開業医中心の利益団体と言っていい。
いま、医療費削減を掲げる日本維新の会の連立政権入りで、医療保険制度改革の議論が激化している。
診察や検査など個別の医療行為の値段である診療報酬は2年に1度、厚生労働省の「中央社会保険医療協議会」(中医協)で審議される。年末に国民医療費の総額の増減を示す改定率が決まり、翌年6月に改定される。今年は改定率が決まる年にあたり、年末を控え、維新の主張をテコに開業医の既得権益の縮小を図る財務省に対し、日医は高市首相誕生の立役者である奈良県医師会長のパイプにすがり、巻き返しに躍起なのだ。
冒頭の会見の約2週間後、11月6日の会見で松本会長は怒りを爆発させた。
〈 この続き では、安東氏自身が明かす高市首相との関係、日医をめぐる財務省、維新との対立構図、日医の政治連盟による大物政治家への献金などを詳しく報じている〉
杉谷 剛/週刊文春 2025年11月20日号






