2016年8月8日午後3時、当時の天皇陛下(現在の上皇さま)が、国民に向けたビデオメッセージという異例の形式で、退位の意向を強く示唆するお気持ちを表明されました。この歴史的な瞬間を、当時小学4年生だった悠仁さまは、ご家族全員と共にテレビの前で見守っていらっしゃいました。秋篠宮さまは、将来の皇室を担う悠仁さまの育成について、独自の明確な教育方針をお持ちです。本稿では、秋篠宮さまが語る悠仁さまへの教育哲学、そして上皇さまのおことばが悠仁さまの成長において持つ意味について、江森敬治氏の著書『悠仁さま』を基に探ります。
秋篠宮さまが語る悠仁さまへの厳しい教育方針
秋篠宮さまが悠仁さまに対して実践されている教育方針は、ご自身が皇族として長年培ってこられた経験から深く導き出されたものです。宮さまは、悠仁さまを決して甘やかして育てることはせず、むしろ厳しさの中に愛情をもって接しておられます。筆者が宮邸を訪問した折、秋篠宮さまから直接お伺いした悠仁さまの教育に関するお考えは、その覚悟を示すものでした。
宮さまは、「私は、悠仁を皇族としてというよりも、まずは一人の人間としてどう育つかという点を最も大切に考えています。何よりも、人として立派に成長することを心から願っています」と述べられました。そして、人としての根本を重視する姿勢を示されました。さらに、「同時に、自身の置かれている立場をしっかりと自覚し、その上で自身の個性や才能というものを自由に、しかし責任をもって伸ばしていってほしい」との願いを語られました。また、「社会の一員として当然持つべき常識を備え、常に正直であり、誠実であること。そして、周囲の人々への思いやりや感謝の気持ちを、決して忘れないように育ってほしい」と、人間形成における具体的な要素を強調されました。
親の姿を見て学ぶ「帝王教育」の重要性
秋篠宮さまは、お子様が親の背中を見て自然に多くを学ぶという「背中で教える」ことの重要性を繰り返し述べられています。2009年秋、当時の天皇、皇后両陛下(現在の上皇ご夫妻)がご結婚50年を迎えられた際の記者会見で、宮さまは両陛下についてこう話されました。
「その時代、そのときそのときの今を生きている人々にとって、皇室というものがどういう存在であるのかということを、両陛下は常に深く考え続けてこられたのではないかなと思います」
さらに、ご即位20年を迎えられた当時の天皇陛下(現在の上皇さま)については、「象徴とはどういうふうにあるのが最も望ましいかということを、陛下は20年もの間、絶えず模索し、考え続けてこられたのではないかと思います」と、象徴天皇としての務めに対する深い考察に触れられました。
ある時、秋篠宮さまは筆者に対し、「私自身も、両親(現在の上皇ご夫妻)と一緒に暮らす中で、親の姿を間近で見て自然と自身の立ち位置や役割を学ぶことができ、それが非常に良かったと感じています」としみじみと振り返られたことがありました。このご自身の経験から、宮さまは、悠仁さまもまた、秋篠宮ご夫妻が日々の公務や生活に真摯に取り組む姿などをそばで見ることによって、言葉や机上の学習だけでは得られない多くの大切なことを自然に学んでいくだろうと考えておられます。秋篠宮ご夫妻と共に過ごす家庭での日々こそが、悠仁さまにとって何よりも価値のある、生きた「帝王教育」の機会であると言えるのかもしれません。
悠仁さま9歳の夏:上皇さまの「象徴としてのお務めについてのおことば」
悠仁さまが学習院初等科の附属小学校に通う小学4年生で、9歳になられた夏、日本の皇室にとって極めて重要な出来事が起こりました。2016年8月8日、当時82歳になられていた天皇陛下(現在の上皇さま)が、「社会全体の高齢化が進む中で、天皇もまた高齢となった場合に、象徴としてどのようなあり方が望ましいか」というご自身のお考えを、国民に向けたビデオメッセージという形で発表されたのです。これは正式には「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」と呼ばれています。
上皇さまは、数年前からご高齢による体力の衰えなど、様々な制約を感じていらっしゃいました。ビデオメッセージの中で、「次第に進む身体の衰えを考慮するとき、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と、率直なご自身の状況と懸念を述べられました。そして、終身天皇制を前提とする現行の皇室制度における課題にも触れ、ご自身の代での生前退位の可能性を強く示唆されました。
当時、内閣総理大臣を務めていた安倍晋三氏は、上皇さまのおことばを「重く受け止める」と表明し、政府内で退位を実現するための法整備に向けた具体的な議論が進められる契機となりました。上皇さまは、天皇というご自身の立場から、現行の皇室制度そのものに直接的に言及することは控えられましたが、約10分間に及ぶビデオメッセージを通じて、ご自身の個人的な考えや、将来の皇室のあり方に対する深い思いを、国民一人ひとりに語りかけるように丁寧に伝えられました。
翌日、2016年8月9日の読売新聞朝刊の社説では、このおことばについて「生前退位の意思を抱いておられる陛下が、ビデオメッセージという異例の形で自身の考えを語られたのは、国民への強い思いの表れだ」と報じました。さらに、「天皇陛下の思いを真摯に受け止め、象徴天皇のあり方を幅広く議論する契機としたい」と述べ、上皇さまのお気持ち表明が、今後の皇室のあり方や制度について国民全体で考えるべき重要な機会となることを強調しました。この歴史的な「おことば」が発せられた時、悠仁さまは9歳。ご家族と共にその瞬間を目にし、皇室の現在と将来について、幼心にも何かを感じ取られたことでしょう。
上皇さまが国民にお気持ちを語るビデオメッセージの様子
結びに
秋篠宮さまの教育方針は、悠仁さまが将来皇族としての重責を担う上で必要な資質はもちろんのこと、何よりも一人の人間として豊かに、そして自覚を持って成長されることを強く願う親心と、ご自身の経験に基づいています。同時に、上皇さまが「象徴としてのお務め」に対する深い考えや、皇室のあり方についての真摯な姿勢を国民に示された「おことば」は、幼い頃から悠仁さまがご家族を通じて自然に学び、将来の自身の役割について考える上で、極めて重要な「帝王教育」の一環であったと言えるでしょう。悠仁さまの健やかな成長は、多くの国民が心を寄せるテーマです。
参考文献
- 江森敬治『悠仁さま』(講談社)