米国における薬物問題は深刻化の一途をたどっており、特に身近な処方薬の不正使用や、SNSを介した薬物取引が新たな課題となっています。前回の記事で触れた日本人女子大生「亜紀さん」の体験談は、この現実の一端を示しています。彼女がワシントンDC近郊で出会った「ジョン」という男性を通じて、その危険性は明らかになりました。ジョンは日系人の母親を持ち、片言の日本語も話す人物で、亜紀さんはすぐに彼に惹かれたといいます。しかし、この出会いが彼女を薬物の世界へと引き込むきっかけとなったのです。
処方薬の蔓延と知られざる依存の罠
亜紀さんの証言によれば、ジョンは「クッシュ」と呼ばれる大麻を日常的に使用しており、米国では人前でも躊躇なく吸引するほど蔓延している様子だったといいます。しかし、ジョンが所持していたのは大麻だけではありませんでした。彼が主に扱っていたのは、ザナックス、パーコセット、バイコディンといった処方薬でした。これらは本物かどうかも不明なものが多く、特にザナックスは亜紀さんにとって「体が温まりリラックスできる」感覚から、すぐに手放せなくなってしまう常用薬となりました。薬が切れると不安で眠れなくなるという依存状態に陥り、ジョンは仕事もせずに彼女に小遣いをせびるなど、関係は歪んでいきました。亜紀さんは後に、彼にとって自分が「ATM」のような存在だったのかもしれないと語っています。
抗不安薬「ザナックス」のボトル写真、アメリカで乱用される処方薬
SNSで横行する薬物取引と絵文字隠語の実態
亜紀さんの体験に登場するザナックス(Xanax)は抗不安薬、パーコセット(Percocet)とバイコディン(Vicodin)は鎮痛剤であり、いずれも医療現場で用いられる処方薬です。近年、米国ではこれらの処方薬、特にオピオイド系鎮痛剤の乱用が社会問題化しており、中には致死性の高い密造フェンタニルが混入した偽薬も出回っています。これらの危険な薬物が、驚くほど容易に入手できる状況が生まれています。
ジョンが薬物を入手していた経路は、当初はストリートでしたが、その後はSNSが主流になったといいます。米国のSNS上では、薬物取引に用いられる特有の隠語や絵文字(EMOJI)が氾濫しているとのこと。特定の絵文字の組み合わせが、薬物の種類や量、取引場所などを示すコードとして使われているのです。これは「EMOJI DRUG CODE」と呼ばれ、若者を中心に薬物取引のハードルを下げる要因の一つとなっています。
薬物の隠語としてSNSで使われる絵文字の一覧画像
幻覚剤「ディッパー」の恐怖と向き合い帰国へ
さらにジョンは、亜紀さんに「ハルースィノウジェンス(Hallucinogens=幻覚剤)」だと称するタバコを勧めてきました。これは通称「ウェット(Wet)」と呼ばれるもので、薬物を浸したタバコを指します。亜紀さんがこれを吸ったところ、目の前がキラキラして気分が高揚し、体が火照って痺れるような感覚に襲われたといいます。ジョンはシャツを脱ぎ捨てて奇声をあげるなど、異常な行動を見せました。亜紀さんもその後何度か経験しましたが、「身体から心が離れるような幻覚(離人感)や変な妄想」に悩まされるようになり、使用をやめたそうです。
まさに薬物の深みにはまりかけていた矢先、日本の妹から父親が倒れたという連絡が入りました。この出来事が、亜紀さんにとって薬物から目を覚ます決定的なきっかけとなり、彼女は米国を離れ帰国することを決意したのです。亜紀さんの事例は、米国における薬物問題の複雑さ、処方薬の危険性、そしてSNSという新たな取引経路の出現といった、多岐にわたる側面を浮き彫りにしています。
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