蒲田という町は、不思議な町だ。
東京は大田区、特別区の南の端に位置する京浜東北線の蒲田駅。この駅には他に東急池上線・多摩川線も乗り入れる。さらに蒲田駅から少し離れた東側には羽田空港に向かう京急蒲田駅もある。つまり、蒲田は東京・城南の交通の要衝というわけだ。
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とはいえ、たとえば山手線の新宿渋谷池袋といったマンモスターミナルとは本質的に違うはず。いくら大田区が人口75万人を抱え、蒲田駅がその区役所の最寄り駅であっても、都心と郊外を結ぶハブのような山手線ターミナルのような巨大な町を抱えているとは、いくらなんでも思えない。
60年以上前、「蒲田」から端を発したあの名作の“ナゾ”
ところが、である。なのに蒲田の町は、ひたすら繁華街なのである。駅を降りて東も西も、どこまで歩いても繁華街が続いているのだ。まるで山手線のターミナルか、それ以上の規模で蒲田駅の周りには繁華街が広がっている。
その中身はというと、もちろん定番のチェーン店もひととおり。ただ、それよりも目立つのは実に庶民的な立呑み屋の類いの店だ。
だいたい東京郊外にはどこも立呑み屋がひとつやふたつある。ところが蒲田には、目の前にあったら角を曲がってまた立呑み屋、その先にも、さらに奥の角の向こうにも、といった具合だ。
そうした中にラーメン店や町中華などが入り混じり、一見すると入りにくそうなのだが一度入ってしまえば居心地が良さそうな(たぶん)バーなんかもあったりする。ところどころには、少々卑猥な香りを漂わせる店もあったりして、雑多で猥雑、筋金入りの庶民派の繁華街、といったところだ。
さすがにアーケード商店街などはそういう感じとはやや違っているのだが、1本路地に入れば、どこまでも広範囲に広がるザ・蒲田を決定づける繁華街。西口の東急線高架沿いの「バーボンロード」などはまさに圧巻だ。これが蒲田の蒲田たる、そういう部分なのだろう。
松本清張の名作『砂の器』は、蒲田駅の操車場(車両基地)で男の遺体が発見されるところからはじまる物語。身元がなかなか判明しないが、遺体発見の前夜に駅近くのトリスバーで飲んでいたことがわかる。そのトリスバーも、こういう繁華街の中のどこかにあったのかもしれない。