知らぬ間に家族が亡くなっていて、弔うこともできない――。最悪なトラブルが、各地で起きている。その背景には、遺体の管理・埋葬の基準が各自治体によって異なる現状があった。
「主人の兄が火葬されていたことを知ったのは、死後3カ月以上もたってからでした。一人暮らしだった義兄が亡くなった後、役所が親族はいないと判断したことから、私たちの知らない間に火葬されていたのです。車で10分ほどの近いところに住んでいるのに、こんなことがありえるのかと……」
こう悲痛な胸の内を語るのは、京都市在住の今西淳子さん。
2022年1月6日、淳子さんの夫・恵一さんの実兄で、元大学教授の今西一(はじめ)さんが自宅で急性心筋梗塞を起こし、救急搬送された病院で亡くなった。
初めに異変に気付いたのは、古くからの友人のAさん。3カ月近く連絡がつかないことを不審に思って自宅に向かうと、郵便物がどっさりたまっていた。「ただごとじゃない」と感じたAさんはすぐ弟の恵一さんに問い合わせ、調べていくうちに突然亡くなったことが明らかになったのだ。
一さんは一人暮らしで倒れたため、死後、京都市が身元調査を行った。しかしながら“身寄りのない人”という誤った判断から、弟の恵一さんに連絡はおろか、既に火葬されて市が管理する無縁納骨堂に埋葬されていたという、信じがたい出来事が起きていた――。
そもそもなぜ、京都市は一さんを“身寄りのない人”だと判断したのか。
「市の説明では、義兄の戸籍に記されていたのは本人と亡くなった両親だけで、主人(弟)の名前はなかった。市が調べたのは京都市内の戸籍のみ。調査範囲を広げると時間がかかるため、当時の身元調査では、調べる範囲は京都市内の戸籍情報と決まっていたとのことで……。結果、身寄りがない遺体として火葬したと説明を受けました」(淳子さん、以下同)
弟の恵一さんは、淳子さんとの結婚を機に親の戸籍から外れており、京都市内の戸籍には恵一さんの名前がなかったのだ。
「同じ市内の近くに住んでいるのだから、ちょっと調べればわかるんじゃないかと……。市の説明に納得はできませんでしたが、『このようなことが二度と起こらないようにしてもらいたい』と、市の職員に強く要望しました」
墓地埋葬法第九条によれば、病院や自宅で亡くなり、身寄りや相続人がいないなどの事情で遺体の引き取り手がない場合、死亡した場所の自治体が保管、火葬することが法律で定められている。
だが、その手順に関する統一したルールはなく、火葬までの取り扱いは自治体によってさまざまだ。
たとえば、親族の有無をどこまで調べ、どこで打ち切るべきか。具体的な規定がないため、今西さん夫妻のように、火葬後に親族が名乗り出て、自治体とトラブルになるケースが各地で起きている。
今年3月、厚生労働省は、2023年度に身寄りがないなどの事情で引き取り手がなく自治体が火葬や埋葬を行った遺体が、約41,969人(推計)だったことを発表した。これは、2023年の全死亡者数の2.7%にも相当する人数だ。
同報告書では、厚労省から委託を受けた日本総合研究所が全国の約1,160市区町村に対して実施した、ヒアリング調査の内容が公開されている。