【転換への挑戦】元首相 中曽根康弘 国際協調無視できぬ中露

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【転換への挑戦】元首相 中曽根康弘 国際協調無視できぬ中露


 集団的自衛権行使の問題をめぐる自民、公明の与党協議の話し合いが大きな局面を迎えつつある。

 敗戦後、日本の安全保障は憲法9条によって当初は自衛権そのものさえ認められなかった。昭和22年に代議士となった私にとって、こうした問題を克服する憲法改正こそ取り組むべき最大の課題であったが、その改正は決して容易なものではなく、所与の9条の下でどのようにして日本が自衛権を有することになり、実効性を持つ体系をつくりあげるかということが基本的課題となってきた。

 課題の実現には、同盟国である米国と協議の上で他国の理解と国民的支持も非常に重要であった。35年に岸政権で行われた日米安全保障条約の改定は安保闘争の嵐が吹き荒れ、国民的支持という面でいささかの不安はあったが、岸信介首相の政治力で克服された。爾来(じらい)、安全保障政策は自民党主導の下、野党と話し合いの中で注意深く形成されてきたといえる。その結果、積み上げられた政策は国際的にも国内的にも定着していった。

 ただ、こうした自衛権の整備はあくまで安全保障上の一要素であって、全体を見据えた外交戦略とそのための努力は欠かせぬものである。集団的自衛権の行使容認が中国、韓国、ロシアへのインパクトが少なからずあるとなれば、行使可能による国際的影響や反応についての分析や検討も大事となる。

 日本の戦後外交における対米善隣友好という外交戦略は功を奏してきたと思うし、そうした意味では、対中、対韓政策における協調という面を忘れてはならない。安倍政権に課せられた宿題ともいえる。

 安全保障政策の転換を図っているオバマ米政権との連携は言うまでもないが、オバマ政権は独自の世界戦略を指導してきた歴代米政権と比べて、米国の安全第一を考え各国との協調志向が強い。今、中国やロシアは東・南シナ海やウクライナにおける「力による現状変更」によって自由世界から問題視されている。しかし、ロシアにかつての共産主義の影はなく、中国の共産党政権も国民生活の向上等もあって、徐々に独裁色は薄れ、イデオロギーは消えつつある。

 現状のロシアや中国の行動をとらえて戦後の米ソ冷戦時代への逆行に例えられたりもするが、そういうことは考えにくい。一部の例外はあっても多くの国では、イデオロギーよりも民生の向上、平和の維持という国民の要求の下に政治が譲歩しつつある。国連もかつての冷戦時代と比べれば、それなりの機能を果たしている。

 こうした傾向は、重大な国際紛争や問題が起きない限りは続いていく。平和と生活向上への要求による経済的連携と国際協調を多くの国は決して無視できないし、ましてや中露両国もその例外ではない。安倍政権は今後、集団的自衛権行使の対応のさらなる検討を進め、手詰まりとなっている中韓外交の打開をどう図っていくかにも同時に全力を傾けるべきであろう。

未来を切り拓く

 来年は日本の敗戦から70年を迎える。

 敗戦を知る者にとっては、日本はよくぞここまで来たという感じだ。日本の発展には、国民の愛国心や、教育レベルの向上が大きく影響している。敗戦でつくられた憲法ではあったが、国民はこの憲法を善用し、生かしてきている。ただ、残念に思うのは、政治に国家の革新性とか新しい理想を求めて国を変革しようという気概、迫力が欠けている。国内総生産(GDP)が向上し、大きな国際的紛争もなく、現状の政治はそうした環境認識の下に運営されている。

 明治時代や敗戦後の時代の政治家は、次の時代に向けての戦略意識と、モノにすべき政策の立案、予見、実行力が備わっていた。たしかに戦後、世界は民生の充実、発展を軸に動いてきたし、それが国際平和をつくる一因ともなっている。

 しかし、日本の経済も科学技術も豊かになった今、その基礎の上に立ってさらなる前進を目指し、現状に甘んずることなく、よりよき国家、世界をつくっていくための努力を継続していかねばならないし、自らの懶惰(らんだ)を警(いまし)めねばならない。

 安倍政権は国家の中長期の課題として人口減少や移民政策、働き方や女性の積極的活用に取り組みつつある。人口減を主因とする国力の減退という大きな問題があり、国力を保持していく上での教育と科学技術は、次世代を担う青少年の教育や高度教育と相まってまさに国力に直結する大きなテーマといえる。

 国家やそれを取り巻く世界は日々刻々と変化し、とどまることを知らない。こうした問題と変化の中で、政治の本質は未来を切り拓(ひら)いていくことである。それはまさに可能性への挑戦であり、本稿のテーマの「転換への挑戦」でもある。(なかそね やすひろ)

<2014/06/23(月) 東京本紙朝刊 朝1面掲載>

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