韓国 尹錫悦前大統領が「不正選挙」映画を観覧、選管が異例の徹底反論

2025年5月21日、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領がソウル市内の映画館に姿を見せたことは、韓国政治に新たな波紋を広げた。憲法裁判所による弾劾決定後、法廷以外での初の公の場となったこの訪問の目的は、不正選挙疑惑を扱ったドキュメンタリー映画『不正選挙、神の作品なのか』の初日上映を観覧することだった。この行動は、一部で根強い不正選挙説に対する尹氏の変わらぬ支持を示すものと受け止められている。実際、内乱罪で起訴された自身の刑事裁判において、尹氏は過去に「不正選挙疑惑を検証するために非常戒厳令を準備した」と証言している。

2025年5月、ソウルで不正選挙ドキュメンタリー映画を観覧後、劇場を後にする尹錫悦前大統領の写真2025年5月、ソウルで不正選挙ドキュメンタリー映画を観覧後、劇場を後にする尹錫悦前大統領の写真

この前大統領の行動に対し、翌日、中央選挙管理委員会(選管)は強い遺憾を表明し、異例となる7ページにわたる詳細な反論文を配布した。選管は、映画で取り上げられた主張のほとんどが既に公式に説明されており、過去の裁判所の判決によって明確に否定されていると強調した。

不正選挙疑惑を巡る司法と選管の見解

選管の反論は、過去の司法判断に基づいている。最高裁判所は3年前、不正選挙疑惑を提起した「未来統合党」(現「国民の力」)のミン・ギョンウク氏による選挙無効訴訟を棄却している。この40ページを超える判決文の中で、最高裁は原告の主張に対して「これを認める証拠は他に存在しない」という文言を最も多く使用したとされる。裁判所は、ミン氏が唱えた「大量の期日前投票用紙が偽造・投入された」「期日前投票の統計数値から不正操作が推定される」「投票用紙分類機の使用は違法」といった具体的な主張について、いずれも証拠がないか、あるいは根拠が不十分であると結論付けた。

司法の最高権威である最高裁の決定であっても、もちろん完全無欠とは言えない可能性はある。しかし、この裁判において、裁判所が不正選挙の主張一つ一つを詳細に検証し、最終的に原告の主張が「陰謀論」に近いとの判断を下した点は、極めて重要視されるべきだろう。

また、選管も最高裁の判断とは別に、不正選挙疑惑が提起されて以降、継続的に自らの立場を説明し、反論を繰り返してきた。2020年の総選挙以降、不正選挙に関する説明資料は10件を超えている。

陰謀論者の根強い主張と選管への要求

しかしながら、こうした司法の判断や選管の度重なる説明にもかかわらず、不正選挙陰謀論者たちの動きが止まる気配はない。彼らはさらに進んで、裁判所の判断すら信用できないと主張している。

映画を制作したYouTubeチャンネル「イ・ヨンドンTV」の運営者であるイ・ヨンドン氏は、選管の説明に対する反論動画を公開した。その中で彼は、選管の主張には「隙がある」と指摘し、「選管は裁判所の背後に隠れないでください。裁判所の判決文にも多くの疑問があります。選管の説明はさらなる疑問を生んでいます」と述べ、選管に対してより直接的な説明責任を求めている。

今後、選管がどれだけ追加の説明や反論を行ったとしても、合理性や客観性を欠いた不正選挙陰謀論が完全に消滅することは期待しにくい状況にある。

なぜ陰謀論への反論を続ける必要があるのか

だからといって、この種の陰謀論を放置することは許されない。選管が疲弊し、これ以上反論を出さなくなることこそ、不正選挙を声高に叫ぶ人々が最も望む結果なのかもしれないからだ。

陰謀論がこれ以上社会に広がり、根付くことを防ぐためには、たとえ骨の折れる作業であったとしても、根拠のない主張に対しては継続的に反論を続けていく必要がある。これが、デマや虚偽情報に対抗し、社会の健全性を保つ上で不可欠な理由である。

【ニュース1 キム・ジョンフン記者】
(c)KOREA WAVE/AFPBB News

参考資料

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