総火演2024:ウクライナ戦争が変えた陸自の訓練と戦い方

先週の8日日曜日、国内最大規模の実弾演習である富士総合火力演習(総火演)が実施されました。今年で67回目を迎えた総火演は、近年、内容に様々な変化が見られます。今年の総火演は、昨年の訓練重視の内容から一転、「見せる」要素が再び強調された伝統的な形式に戻りつつも、その構成には重要な変化が加えられていました。特に、ウクライナ戦争からの教訓が色濃く反映されている点が注目されます。この記事では、今年の総火演がどのように変わり、陸上自衛隊が示す「これからどう戦っていくのか」を探ります。

10式戦車が行進間射撃を行う様子。総火演の迫力を伝える一枚10式戦車が行進間射撃を行う様子。総火演の迫力を伝える一枚

演習構成の変化と「見せる」側面への回帰

昨年の総火演は、より実践的な訓練に近い内容となり、広報的な「見せる」側面よりも、実際の演習に重きが置かれている印象でした。しかし、今年の総火演は一転、以前のような丁寧な解説アナウンスに沿って進行する、従来の公開演習形式に戻りました。これは、総火演が持つ広報宣伝効果を改めて重視した結果かもしれません。

演習全体が「前段」と「後段」に分かれている構成は例年通りでしたが、大きな変更点として、これまで後段で行われていたシナリオ型式の展示が、前段から開始されるようになったことが挙げられます。前段では、個々の装備品の射撃展示は対戦車火器(対戦車ミサイルやロケット)と各種火砲・迫撃砲のみに限定されました。この構成変更は、後述する火力の重要性を強調するための一環とも考えられます。

今年の富士総合火力演習で繰り広げられた大規模な展示。見せる要素が強まった内容今年の富士総合火力演習で繰り広げられた大規模な展示。見せる要素が強まった内容

ウクライナ戦争が示す火砲・迫撃砲の重要性

今年の総火演で特に印象的だったのは、特科火力、すなわち火砲や迫撃砲の重要性が繰り返し強調されたことです。アナウンスでは、ウクライナ戦争に触れつつ、「特科火力は火力戦闘の中心的存在であり、勝敗を決する決定的要素としてその重要性が高まっています」と明確に解説されました。

シナリオ型式の展示においても、防御、反撃、攻撃の各場面で、火砲による敵陣地の制圧状況が具体的に描かれました。これは、ドローンなどの新しい兵器が注目されがちな現代戦においても、火砲が依然として戦場の死傷者の大半をもたらす主要な兵器であり、その重要性がウクライナでの戦いを通じて再確認されたことを踏まえたものです。

会場に整列する火砲・迫撃砲部隊。ウクライナ侵攻で再認識された火力の重要性会場に整列する火砲・迫撃砲部隊。ウクライナ侵攻で再認識された火力の重要性

ウクライナからの教訓:塹壕戦術の再評価

後段の展示では、敵上陸部隊と陸自守備部隊が対峙する状況から、反撃部隊が上陸し、敵を撃破するまでのシナリオが展開されました。この後段にも、ウクライナ戦争の教訓に基づく新たな要素が追加されました。それが、塹壕への突入展示です。

これもウクライナでの戦況を反映したもので、「ウクライナ軍はロシアによる大砲やロケット攻撃に対して、塹壕を掘ることにより人的被害を最小限にとどめています。塹壕線が見直されつつあるとともに、敵の塹壕陣地に対応する必要が生起しています」とのアナウンスがありました。一見、古い戦術に思える塹壕ですが、現代の火力戦においては依然として有効な防御手段であり、その突破方法が訓練で重要視されていることが示されました。

塹壕内で行動する陸上自衛隊員。ウクライナ戦争の教訓が反映された訓練風景塹壕内で行動する陸上自衛隊員。ウクライナ戦争の教訓が反映された訓練風景

戦果拡張と陸自の新たな戦い方

演習のクライマックスでは、敵を撃破した陸上自衛隊が、予備戦力である戦車部隊を投入し、攻撃ヘリコプターの掩護のもと会場を前進するという、迫力ある戦果拡張のシーンが展開されました。多くの戦車や装甲車、攻撃ヘリなどが一斉に進む様子は、まさに総火演ならではの「見せる」要素の頂点であり、今年の演習を締めくくりました。

攻撃前進する戦車部隊と攻撃ヘリ。総火演のクライマックスを飾る迫力の光景攻撃前進する戦車部隊と攻撃ヘリ。総火演のクライマックスを飾る迫力の光景

まとめ

今年の富士総合火力演習は、広報的な要素を重視しつつも、ウクライナ戦争から得られた具体的な教訓を演習内容に積極的に取り込んでいる点が最大の特徴と言えます。火砲の重要性、そして塹壕戦術への対応など、現実の戦場の変化に適応しようとする陸上自衛隊の姿勢が明確に示されました。新装備の公開と合わせて、今回の総火演は、日本の防衛体制が国際情勢の変化を受けて進化しつつあることを力強く発信するものとなりました。

[出典] Yahoo!ニュース – https://news.yahoo.co.jp/articles/cde2b4eceed60d06288550d29133e946f0d50bcb