脱毛サロン最大手「ミュゼプラチナム」破産開始決定:120万人の契約者と未払賃金問題の深層

脱毛サロン業界の最大手として知られる「ミュゼプラチナム」を運営していたMPH株式会社(TSRコード: 036547190)が8月18日、東京地方裁判所から破産開始決定を受けました。多くの大手脱毛サロンが積極的な広告戦略を展開する中、今回の破産は、負債総額約260億円、被害契約者数120万人超という規模で、深刻な社会問題として浮上しています。近年、C3、銀座カラー、アリシアクリニックといった大手サロンの倒産が相次いでおり、共通する経営手法とそれがもたらす業界全体の課題が露呈しています。

脱毛サロン最大手ミュゼプラチナムの本社ビル外観、破産問題を背景に脱毛サロン最大手ミュゼプラチナムの本社ビル外観、破産問題を背景に

業界に共通する「事業拡大ありき」の経営モデルと前受金のリスク

破産に追い込まれた脱毛サロンの経営手法にはいくつかの共通点が見られます。これらは、最初の契約を格安料金で設定し、有名人を広告塔に起用して集客を図り、著しいペースで店舗数を拡大するというものです。国内市場で激しい競争が繰り広げられる中、一部の企業がこの手法を採用すると、他社も追随せざるを得ない状況が生まれました。

飲食店やホテルといった業界とは異なり、脱毛サロンは利用者と数年、数回、あるいは永年といった長期契約を結び、その際に前受金を受け取る点が特徴です。この前受金は将来の施術費用を含むものですが、サロン側は施術時期まで資金を自由に確保できます。問題は、この資金が事業拡大、具体的には広告出稿や新規出店に流用されることで、事業規模は急激に拡大するものの、同時に将来の施術費用(債務)も倍増していく点にあります。事業拡大が続く限りはこの債務を賄えますが、拡大が止まると一気に資金繰りが悪化し、倒産に繋がりやすい構造を内包していました。この「泥沼の競争」は、大手クラスのサロンの多くを疲弊させ、次々と倒産に追い込む結果を招きました。その結果、ミュゼプラチナムでは120万人超、銀座カラーでは約10万人もの契約者が前払い金を失うという被害が発生しています。

資金繰り悪化が招いた従業員への影響:未払賃金問題の背景

ミュゼプラチナムの破産には、もう一つ看過できない問題があります。それは、資金繰り悪化の余波が従業員にも及んだことです。運営会社のMPHは2024年9月に事業を引き継いだものの、同年11月から従業員への給与支払いが遅延し始めました。その後、一部の支払いはあったものの、未払賃金は膨れ上がっていきました。

通常、企業が未払賃金を抱えたまま倒産した場合、国の「未払賃金立替制度」を利用して一定額を立て替えてもらうことが可能です。独立行政法人労働者健康安全機構によると、2024年度にはこの制度が2,623件の企業に適用され、支給を受けた労働者数は10年ぶりに3万人を超えています。しかし、MPHは経営悪化後、休業や新会社設立といった措置を進めたため、この「未払賃金立替制度」の適用が困難な状況に陥っていました。このため、未払賃金を抱える従業員らが集まり、債権者として破産を申し立てるに至ったのです。今回の破産開始決定によって、ようやく「未払賃金立替制度」が適用される見込みとなりました。

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脱毛サロンの相次ぐ破産は、多くの契約者に甚大な被害をもたらし、今回のミュゼプラチナムの事例では従業員にまでその影響が及びました。事業移管の際には、契約者情報の取り扱いにも細心の注意が必要です。これらの状況を鑑み、消費者保護と労働者保護の観点から、美容サービス業界における規制のあり方について、本格的な議論が喫緊の課題となっています。

参考文献

  • 東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年8月21日号掲載予定「取材の周辺」
  • 独立行政法人労働者健康安全機構 公式ウェブサイト