焼肉業界「倒産最多」の逆風下で「焼肉きんぐ」が驚異の成長を続ける理由

近年、日本の外食産業、特に焼肉業界は未曾有の逆風に直面しています。新型コロナウイルス感染症のパンデミック期には、焼肉店の換気能力の高さが注目され一時的な好況を享受しましたが、現在は輸入牛肉価格の高騰、人件費の上昇、円安による物価高が重なり、経営を圧迫しています。2024年度には焼肉店の倒産件数が過去最多を記録するなど、厳しい状況が続いています。しかし、このような逆境の中で、食べ放題形式の「焼肉きんぐ」は快進撃を続け、店舗数も売上高も右肩上がりの成長を見せています。なぜ「焼肉きんぐ」だけが、他の大手チェーンが苦戦を強いられる中で「一人勝ち」とも言える成長を達成しているのでしょうか。その背景と強みに迫ります。

焼肉業界を襲う厳しい経営環境と倒産件数の急増

帝国データバンクの調査によると、2024年度における焼肉店の倒産件数(負債1,000万円以上、法的整理)は55件に上り、前年(27件)の約2倍と過去最多を更新しました。この背景には、円安や国際的な物価高に起因する輸入牛肉の仕入れ価格の高騰があります。2020年度と比較して輸入牛肉価格が約1.8倍に膨らんだほか、人件費も大幅に上昇しており、原材料費と人件費が経営を強く圧迫しているのです。一時は換気能力で注目された焼肉店も、このようなコスト増には耐えきれず、多くの店舗が閉店に追い込まれています。

焼肉業界の厳しい現状と「焼肉きんぐ」の成長の対比を示すイメージ焼肉業界の厳しい現状と「焼肉きんぐ」の成長の対比を示すイメージ

大手焼肉チェーンの苦境と店舗数減少の連鎖

大手焼肉チェーンもこの厳しい波の影響を免れていません。2000年創業の低価格路線で知られる「七輪焼肉安安」は、2022年7月に約180店舗のピークを迎えた後、減少に転じ、現在は162店舗となっています。また、1963年創業の老舗「安楽亭」は、2020年3月期末の180店舗から2025年3月期末には142店舗へと減少しました。かつては200店舗以上を展開していた時期もあります。「牛角」もまた、コロナ禍以前には600店舗以上を運営していましたが、100店舗以上を閉店し、現在は493店舗にまで縮小しています。牛角の最盛期は2004年の840店舗であり、安楽亭と共に2000年代初頭のBSE問題以降、継続的な苦戦を強いられてきました。

「焼肉きんぐ」が市場を席巻する理由:独自の戦略と成長力

このような焼肉業界全体の逆風とは対照的に、「焼肉きんぐ」は目覚ましい成長を遂げています。運営元の物語コーポレーションのデータによると、焼肉きんぐの店舗数は2020年6月期の241店舗から2025年6月期には351店舗へと、わずか6年間で100店舗以上も増加しました。さらに、焼肉部門の直営店売上高も2020年度の301億円から2025年6月期には616億円と、驚異的な倍増を達成しています。

「焼肉きんぐ」の成功の背景には、徹底した顧客体験の追求と効率的な運営戦略があります。特筆すべきは、タッチパネルでの注文システムによる迅速な料理提供と、客層を問わない豊富なメニュー展開です。特に家族連れや友人同士のグループをターゲットにした「食べ放題」形式は、価格変動の影響を受けにくい安定した需要を確保しています。さらに、店舗運営の標準化と従業員教育への注力により、質の高いサービスを維持しつつ、コスト効率の良いビジネスモデルを構築している点も強みです。競合他社が原材料費高騰や人件費上昇に苦しむ中、「焼肉きんぐ」はこれらの課題を乗り越え、市場で独自の地位を確立していると言えるでしょう。

まとめ

焼肉業界全体が倒産件数過去最多という厳しい状況に直面する中で、「焼肉きんぐ」の成長は異彩を放っています。輸入牛肉価格の高騰、人件費の増大、円安といった共通の課題に対し、他社が店舗数減少や業績悪化に苦しむ中、「焼肉きんぐ」は食べ放題というビジネスモデルの強み、効率的な店舗運営、そして顧客ニーズを捉えたメニュー戦略によって、逆境を乗り越え、持続的な成長を実現しています。この成功は、現在の外食産業における生き残りのヒントを与え、今後の業界動向を占う上で重要な事例となるでしょう。