日本の食卓に欠かせないコメの価格が、依然として高い水準で推移しています。農水省が発表したスーパーでのコメの平均販売価格は、5kgあたり4000円台にまで上昇。この価格高騰の背景には何があるのでしょうか。コメ流通評論家の常本泰志氏が、その複雑な要因を掘り下げて解説します。
スーパーでの米の平均販売価格を示す表示とコメ流通評論家の常本泰志氏
要因1:政府による需要予測の誤り
コメ(主食用)の価格高騰の第一の要因として、政府の需要予測ミスに基づく生産調整が挙げられます。主食用コメの生産量と需要量の推移を見ると、特に2023年から2024年にかけて、生産が実際の需要に追いついていない状況が明確に分かります。
農水省データに基づく主食用コメの生産量と需要量の推移グラフ
常本氏によると、2024年の推定需要量は約682万tでしたが、実際は約705万tと、実に20万t以上の差が生じました。この大幅な見込み違いが、2024年夏に多くのスーパーでコメが品薄になった主要因の一つであると考えられます。コロナ禍では需要より生産が上回る状況もありましたが、コロナ禍を経て家庭内消費が増加し、「需要量が底を打った」ことを見誤った形です。
要因2:公式データと農家の実情との乖離
第二の要因は、農水省が公表する統計データと、現場の農家の実感との間に認識のズレがあることです。農水省の発表では、2024年産のコメ収穫量は約679万t(前年比約18万t増)で、作況指数も101と平年並みでした。しかし、多くの農家からは「実際にこれほど穫れている実感がない」という声が聞かれました。
作況指数公表廃止について言及する小泉大臣
こうした現場からの声を受け、小泉大臣は16日、作況指数の公表を廃止すると表明しました。また、収穫量調査の方法についても見直しを行うとし、ふるい目の変更、人工衛星や人工知能の活用、そして生産者からの収穫量データを主体とする調査への移行などが検討されています。常本氏は、長年産地を見てきた経験から、「ここ10年、数字が当っていたことはない。それほどコメが余っていた時期が続いた」と、従来の調査方法の課題を指摘しています。
要因3:複雑化した流通経路の混乱
第三の要因として、流通経路の一時的な混乱が高騰を招いています。去年夏、小売店の店頭からコメが消える事態が発生したことで、小売業者は卸売業者に対し、強い調子でコメの仕入れを要求しました。これを受けて、卸売業者は農家と直接契約を結ぶ動きを加速させました。
コメ価格高騰は複合的な要因によるものであることを示すイメージ
通常の流通ルートよりも高値で直接交渉が成立するようになったことが、コメ価格高騰の一因となりました。また、卸売業者に直接コメが流れる量が増加した結果、JAなどの従来ルートに入ってくるコメの量が大幅に減少し、これがさらなる価格上昇の要因の一つとして作用しています。
結論として、現在のコメ価格高騰は、政府の需要予測ミスと生産調整の遅れ、公式統計と現場の実態との乖離、そして需要逼迫を受けた流通経路の混乱という、複数の要因が複合的に重なり合った結果と言えるでしょう。これらの構造的な課題の解決が、今後の価格安定に向けた重要な鍵となります。
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