ドイツで生活していると、街中で見かける車の多くが汚れていることに気づく。ピカピカに磨き上げられた車を見かける機会は比較的少ないのだ。なぜドイツの車はきれいではないことが多いのか?この疑問を解消するため、筆者は普段から車を使用している大学のゼミ教授に話を聞いた。教授によると、ドイツでは車庫を持たない家が多く、その場合は路上に駐車するのが一般的だという。路上にいつもピカピカの車が停まっていると、盗難犯のターゲットにされやすくなるため、頻繁に洗車したり、常にきれいな状態を保ったりすることは避ける傾向にあるとのこと。これは安全面から見た「車をあえてきれいにしない理由」の一つだ。しかし、ドイツで車がきれいではない理由には、これだけではない、さらに決定的な背景がある。日本では週末に自宅の庭先で愛車を洗う光景がよく見られるが、なんとドイツではこれが多くの地域で違法行為とされているのだ。
自宅の庭先での洗車が違法となる法的根拠
ドイツのほとんどの州では、屋外での洗車が禁止されている。路上駐車が多いという事情に加え、たとえ自宅の庭での洗車であっても、多くの場合は禁じられているのだ。この禁止の最大の理由は、環境保護にある。「洗車で出た汚水が地面に染み込んで地下水を汚染したり、洗浄剤や車の汚れに含まれる有害物質が下水に流れ出たりする可能性があるため」というのが主な根拠だ。環境保護を重視するドイツらしい徹底した考え方と言えるだろう。一部の州や自治体では条件付きで認められているケースもあるが、基本的なルールとして、自宅での屋外洗車は高額の罰金が課せられる可能性が高い違法行為とされている。
では、ドイツ人はどうやって洗車するのか?専門の洗車施設を利用
自宅での洗車が基本的に違法であるならば、ドイツの人々はどのようにして車をきれいに保っているのだろうか。洗車によって排出される排水には、洗浄剤だけでなく、溶解した油分や煤(すす)なども含まれる可能性があるため、これらの有害物質を適切に処理できる仕組みを備えた専用の洗車場や洗車機を利用する必要がある。郊外には大規模な洗車専用ステーションが見られることも多いが、一般的には日本のガソリンスタンドに併設されているような洗車施設が主流だ。これは日本の風景にも近いと言える。入口は日本の洗車機と似た見た目をしており、車ごと中に入って洗ってもらうシステムも共通している。
ドイツの住宅街で、車庫を持たない家が路上に車を停めている様子。ドイツでは路上駐車が一般的。
筆者が見かけた洗車施設は、近くのカーシェア駐車場の車を常に清潔に保つための提携も行っているようだった。大きなガレージの入り口付近には、車内からでも確認しやすいように価格一覧が掲示されている。
日本と比較して高額な洗車費用と頻度
ドイツでの洗車費用は、日本と比較するとかなり高額だ。一番シンプルなベーシックコースで9.90ユーロ(2025年6月現在で約1600円)かかる。日本のガソリンスタンドで数百円でできるシャンプー洗車などと比べると、その差は歴然としている。予洗い、温水洗い、艶出し剤塗布、乾燥まで含まれるプレミアムコースに至っては、一回あたり18.90ユーロ(同約3100円)もする。一度の洗車にこれだけのコストがかかることを考えると、洗車の頻度が少なくなりがちなことも納得できる。実際に、友人に話を聞いたところ、車に強いこだわりがある人以外は、費用の高さからあまり頻繁に利用しないのが実情だという。常にピカピカな状態を保つと逆に目立って狙われやすくなる、という前述の盗難リスクの話とも、この洗車費用や頻度は密接に繋がっていると考えられる。
まとめ
ドイツで自宅での屋外洗車が違法である主な理由は、洗車排水による地下水や下水汚染を防ぐという徹底した環境保護の考え方に基づいている。そのため、洗車をする際には、排水処理設備が整った専用の洗車場やガソリンスタンド併設の洗車施設を利用する必要がある。こうした専門施設での洗車費用は日本と比較してかなり高額であり、これがドイツの車があまり頻繁に洗われず、常にピカピカな状態が少ない理由の一つとなっている。費用や環境規制だけでなく、路上駐車が多い環境下での盗難リスク回避といった側面も、ドイツの洗車事情を理解する上で重要な要素と言えるだろう。
参考資料:
https://news.yahoo.co.jp/articles/4c7b17392dbb56aeafe0a02f61a967e28e0478a8