朝ドラ「あんぱん」妻夫木聡&二宮和也が描く戦争の悲劇と絶望

NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、国民的キャラクター『アンパンマン』を生んだ漫画家・やなせたかしさんと妻の小松暢さん夫妻をモデルにした作品です。今田美桜さんがヒロイン・朝田のぶを、北村匠海さんがやなせさんをモデルにした柳井嵩を演じ、その生涯を描いています。現在放送されている物語は、太平洋戦争末期の過酷な時代が舞台となっており、特に最近の放送回では戦争が生み出す悲劇や絶望が克明に描かれ、視聴者に大きな衝撃を与えています。

戦争末期の過酷な現実

物語は1945年(昭和20年)、太平洋戦争末期に進んでいます。柳井嵩ら小倉連隊は中国・福建省の駐屯地で活動を続けていますが、補給路が断たれ、食料は完全に底をついています。飢えによって錯乱状態に陥る兵士も出るなど、状況は絶望的です。このような極限状態の中で、兵士たちが直面する現実が鮮烈に描かれています。

「同回では、戦争が原因での“復讐”と“飢えの苦しみ”という2つの悲劇が描かれました。」とテレビ誌編集者は語ります。これは、戦争という社会情勢が生み出した個人的な悲劇であり、政治的・社会的な背景が色濃く反映された描写と言えるでしょう。

妻夫木聡が演じる「復讐」の連鎖

悲劇の一つ目は、“復讐”の連鎖です。嵩の幼馴染でもある軍人・田川岩男(濱尾ノリタカさん)が現地の中国人の少年・リン(渋谷そらじさん)に銃で撃たれ、命を落とす出来事が発生します。なぜ岩男がリンに殺されたのか。嵩の上官である八木信之介上等兵(妻夫木聡さん)がリンから直接話を聞き、その背景を嵩に伝えます。

NHK連続テレビ小説「あんぱん」に出演、戦争の過酷な状況を演じる妻夫木聡NHK連続テレビ小説「あんぱん」に出演、戦争の過酷な状況を演じる妻夫木聡

リンの両親は1年前、ゲリラ討伐の任務を受けた岩男に射殺されていました。リンは両親の復讐のために岩男を撃ったのです。しかし、復讐までの間、岩男に我が子同然に可愛がられていたこともあり、復讐を果たしてもリンの心は晴れませんでした。八木はこの悲しい背景を嵩に伝え、近くに張られていた「占領地良民を己が同胞と心得」と書かれた紙を「こんなもの!」と破り捨てます。そして、嵩を壁に押しつけながら、「戦場で生き残るには、卑怯者になることだと言ったのを覚えてるか。卑怯者は、忘れることができる。だが、卑怯者でない奴は、決して忘れられない! おまえはどっちだ。どっちなんだ! どっちなんだ……」と、普段の冷静さを失い、戦争が生んだやり場のない怒りと悲痛を爆発させる圧巻の演技を見せました。このシーンは、戦争の非人間性や兵士たちの精神的な苦悩を深く描き出しています。

二宮和也が魅せる「飢え」の苦悶

もう一つの悲劇は、“飢え”の苦しみです。柳井嵩は食糧難による重度の栄養失調で倒れてしまいます。意識を失い朦朧とする嵩の前に現われたのが、彼が幼少期に亡くした父・清(二宮和也さん)でした。

朝ドラ「あんぱん」で柳井嵩の父・清を演じる二宮和也、栄養失調の息子と対峙する場面朝ドラ「あんぱん」で柳井嵩の父・清を演じる二宮和也、栄養失調の息子と対峙する場面

このシーンでは、二宮さんが演じる父・清が、飢えに苦しむ息子を案じる姿が描かれました。現実と幻影が交錯する中で、父子の絆や、戦争という状況下で命が削られていく兵士の内面が表現され、視聴者の胸を打ちました。二宮さんの繊細な演技が、飢餓という物理的な苦痛だけでなく、精神的な弱りや家族への思慕といった複雑な感情を映し出していました。

結論

NHK連続テレビ小説『あんぱん』で描かれる太平洋戦争末期の描写は、単なる時代背景としてではなく、戦争が個人の運命や精神にどれほど深い影響を与えるかを問いかける社会派ドラマとしての側面も持ち始めています。特に、妻夫木聡さんと二宮和也さんという実力派俳優が披露した迫真の演技は、戦争が生む「復讐」と「飢え」という二つの悲劇を視聴者に強く印象付けました。彼らの演技は、歴史上の出来事を現代に伝える上で、ドラマという媒体がいかに力強い役割を果たすかを示しています。これらの描写を通じて、やなせたかしさん夫妻の人生の根底にあったであろう、平和への願いや生命の尊さが改めて浮き彫りになっています。

参考文献