自衛隊機に対する「中国軍機が異常接近した」という説明と共に、2機の戦闘機が低空飛行する動画がソーシャルメディア上で広く拡散していますが、これは不正確な情報です。実際に中国軍機が自衛隊機に異常接近する事案が発生したことは事実ですが、拡散されている動画は2024年に開催された日本の自衛隊による航空祭の様子を捉えたものであり、実際の異常接近事案とは全く関係がありません。誤った映像が事実と混同され、誤情報が広がる状況に注意が必要です。
拡散された動画の内容とその主張
2025年6月12日頃から、「中国軍機が自衛隊機に異常接近、自衛隊機に45メートル 太平洋上で空母監視中」といった説明文と共に、2機の戦闘機が非常に低空で飛行する様子を映した動画がソーシャルメディア上で拡散されました。この投稿は短期間に数百万回の表示を獲得し、多くのユーザーが「こんなにスレスレで飛んでいるのか」「威嚇行為ではないか」といった反応を示す一方、「この動画は勘違いを招く」と指摘する声も上がりました。動画のインパクトが強く、実際の事案と結びつけて誤認するユーザーが多く見られました。
中国軍機による異常接近動画として拡散された、築城基地航空祭での戦闘機による低空飛行映像
実際の「異常接近」事案について
拡散された投稿の説明文にある「中国軍機が異常接近、自衛隊機に45メートル 太平洋上で空母監視中」という内容は、実際に発生した事案に基づいています。日本経済新聞などの報道によると、2025年6月7日または8日に、太平洋上を航行中の中国軍の空母を監視していた海上自衛隊の哨戒機に対し、中国軍の戦闘機が約45メートルの距離まで異常接近した事案がありました。この事案については、防衛省が6月11日に公式に発表しており、事実として確認されています。したがって、「異常接近」という出来事自体は存在しますが、問題はそれに添付された動画の内容です。
動画の正体:2024年の築城基地航空祭
拡散している動画は、一般のソーシャルメディアユーザーによって投稿されたものが引用された形でした。この動画の元の投稿は2024年11月24日にされており、そこには「築城基地航空祭 8スコ F22機による低空進入‼️ トップガンさながらの進入度合い」という明確な説明が付記されていました。これにより、この動画が撮影されたのは2024年11月24日に福岡県の航空自衛隊築城基地で開催された航空祭であり、展示飛行として行われた戦闘機(元投稿ではF-22とありますが、築城基地にはF-2が配備されており、展示飛行はF-2によるものと考えられます)による低空飛行の様子であることが判明しました。つまり、中国軍機による飛行の映像では全くありません。また、動画を引用して拡散した投稿の主も、後にリプライ欄で「ちなみにこれ航空祭の動画ね」と追記し、誤解を招いた可能性について言及しています。
事実と誤情報の切り分け
中国軍機が自衛隊機に異常接近したという事実は存在します。しかし、その事実を伝えるために添付・拡散された2機の戦闘機による低空飛行動画は、全く無関係な自衛隊航空祭での展示飛行の様子でした。本来の文脈から切り離され、事実に結びつけられた誤った映像は、多くの人々に誤解を与え、不必要な憶測や不安を招く可能性があります。特に防衛や国際情勢に関する情報は、その正確性が極めて重要です。
まとめ
「中国軍機が自衛隊機に異常接近した」とする説明と共に拡散された戦闘機2機が低空飛行する動画は、実際の異常接近事案の映像ではなく、2024年の築城基地航空祭で撮影された自衛隊機の展示飛行の様子であることが検証により明らかになりました。異常接近事案自体は防衛省も認める事実ですが、拡散された動画はこれと無関係であり、誤った情報が添付されていました。インターネット上で情報に触れる際は、その出典や正確性を十分に確認することが重要です。
出典・参考
日本経済新聞. “中国軍機が異常接近、自衛隊機に45メートル 太平洋上で空母監視中”. 2025年6月11日. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA11CS60R10C25A6000000/ , (閲覧日 2025年6月19日).
防衛省. “中国軍機による自衛隊機への特異な接近について”. 2025年6月11日. https://www.mod.go.jp/j/press/news/2025/06/11c.html , (閲覧日 2025年6月19日).