退職金と貯金で「2000万円」でも足りない?老後資金の現実と運用判断

人生100年時代と言われる現代、公的年金だけでは老後の生活費をすべて賄うのが難しい可能性が指摘されています。そのため、退職金やこれまでの貯蓄を含めた資産全体で、どのように老後資金を計画し、維持していくかが多くの人々の関心事となっています。特に、まとまった金額である退職金をどのように扱うべきか、運用に回すべきか貯蓄しておくべきかといった悩みは尽きません。本記事では、退職金に関する最新のアンケート結果や公的な家計データをもとに、老後資金の現実と退職金の運用判断について解説します。

退職金1000万円と貯金1000万円を持つ人が老後資金の運用について悩む様子退職金1000万円と貯金1000万円を持つ人が老後資金の運用について悩む様子

退職金の使い道は約半数が「運用」を選択

アドバイザーナビ株式会社が55歳以上で退職経験のある方を対象に行った「2023年版 退職金に関するアンケート」は、退職金の具体的な状況や使い道を知る上で参考になります。アンケート結果によると、退職金の金額については「1000万円未満」が38.9%で最も多く、「1000万円~2000万円」が33.6%と続き、全体の70%以上が2000万円未満でした。

また、現在の金融資産額については「1000万円未満」が35.4%、「1000万円~2000万円未満」が22.1%となり、半数以上が金融資産額2000万円未満となっています。

注目すべきは、退職金をどのように扱っているかという問いに対する回答です。「一部を運用している」が39.8%で最も多く、「全額預金している」が38.9%でした。「全額運用している」と回答した方も7.1%おり、退職金を一部または全額「運用に回している」方の合計は約47%に上ることが分かりました。これは、約半数の退職者が退職金を資産運用の対象としている現実を示しています。

総務省家計調査から見る「老後の平均的な家計収支」

老後資金の必要性をより具体的に把握するため、総務省統計局の「家計調査報告[家計収支編]2024年(令和6年)平均結果の概要」から、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における平均的な1ヶ月の家計収支を見てみましょう。

平均的な実収入(主に社会保障給付など)は25万2818円でした。ここから税金や社会保険料などの非消費支出3万356円を差し引いた可処分所得は22万2462円となります。

一方、食料や住居、光熱費、医療費、交通・通信費などの消費支出は平均で25万6521円です。

この結果、可処分所得22万2462円から消費支出25万6521円を差し引くと、毎月平均3万4058円の不足が生じている計算になります。

老後30年で必要な不足額は約1200万円以上

前述の家計調査のデータに基づくと、65歳以上の無職夫婦世帯は平均して毎月約3万4000円の赤字が出ています。仮にこの状況が老後30年間続くと想定した場合、必要となる老後資金の不足額の合計は「3万4058円 × 12ヶ月 × 30年 = 1226万880円」となります。

つまり、平均的な支出水準で生活を維持するためには、公的年金などの収入だけでは足りない分として、約1200万円以上の自助努力による資金が必要となる可能性があるということです。

したがって、退職金以外に1000万円程度の貯金がある場合でも、もし退職金(例えば1000万円)を全額貯金として置いておくだけで、運用による増加が見込めない場合、合計2000万円の金融資産があったとしても、上記の平均的な不足額を補填し続けると約16年程度で枯渇してしまう計算になります。これは、退職金を運用に回すことを検討する人が多い背景とも言えるでしょう。

退職金を運用する際の検討ポイント

退職金を運用するかどうかは、個々の financial 状況、退職後のライフプラン、リスク許容度などによって異なります。アンケート結果が示すように約半数が運用を選択しているものの、これはあくまで平均的な傾向です。

運用を検討する際には、まず自身の年金受給額やその他の収入、毎月の支出を正確に把握し、老後生活で不足する可能性のある金額を見積もることが重要です。次に、どの程度の期間で資金が必要になるか(運用期間)、どの程度のリスクを取れるか(リスク許容度)を考慮し、自身に合った運用方法を選択する必要があります。元本割れのリスクがある運用と、安全性は高いが資産が増えにくい預貯金とのバランスを、個別の状況に応じて慎重に判断することが求められます。必要であれば、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談するのも一つの方法です。

老後資金計画は個別の状況に応じて検討を

退職金と貯金を合わせて2000万円程度の資産がある場合でも、平均的な家計データからは老後期間全体で考えると資金が不足する可能性が示唆されています。退職金を運用に回すかどうかは退職者の約半数が検討・実行している選択肢の一つですが、その判断は個々の資産状況、年金額、必要な生活費、そして何よりリスクに対する考え方によって最適な解が異なります。老後資金計画は、一般的なデータや他者の事例を参考にしつつも、最終的にはご自身の状況に合わせて具体的に検討することが不可欠です。


「2023年版 退職金に関するアンケート」(アドバイザーナビ株式会社)
「家計調査報告[家計収支編]2024年(令和6年)平均結果の概要」(総務省統計局)