イスラエルとイランの交戦を巡り、サウジアラビアなど中東の湾岸諸国は事態沈静化を呼び掛けている。米国が軍事介入すれば、米軍が駐留する湾岸諸国もイランの攻撃対象になりかねないためだ。一方で各国は、代理勢力の存在も含めイランを潜在的脅威と見なしており、本音ではイスラエルの攻撃で弱体化するのを歓迎しているとの指摘もある。
公の姿勢:米軍基地への影響を懸念
「地域全体の平和と安定に及ぼす深刻な結果について強い懸念を表明する」と、サウジアラビアなどアラブ・イスラム諸国の外相は16日の共同声明で述べ、イラン攻撃を開始したイスラエルを非難しつつも、「外交と対話が地域の危機を解決する唯一実現可能な方法だ」と強調し、これ以上の衝突激化を回避するよう強く訴えた。サウジやアラブ首長国連邦(UAE)、カタール、オマーンなど、ペルシャ湾を挟んでイランの対岸に位置する湾岸諸国は、イラン側と継続的に接触を図っている。特に、カタールやサウジなどには米軍が駐留する大規模な基地があり、米国がイランに軍事介入する事態になれば、イランやその代理勢力はこれらの基地を反撃の標的とする構えを見せている。湾岸諸国にとっては、「対岸の火事」が自国に飛び火し、治安や安定が損なわれる前に、何としても事態の収拾を図りたいという切実な思惑がある。
カタールのアルウデイド空軍基地に駐機する米軍機。湾岸諸国における米軍駐留の様子
水面下の本音:イラン弱体化への期待
だが、エジプトのオラビ元外相など専門家は、湾岸諸国について、公の呼びかけとは裏腹に、実際には「米国が湾岸地域の安全を保障してくれる限り、(攻撃を受ける)代償を払ったとしても、イランが弱体化することを望んでいる」と分析している。イスラム教スンニ派の盟主を自任し、米国との連携が深いサウジアラビアは、シーア派の地域大国であるイランと長年にわたり深い対立関係にある。サウジが2015年に軍事介入したイエメン内戦は、サウジが支援する暫定政権と、親イラン武装組織であるフーシ派が激しい戦闘を繰り広げ、これは事実上、サウジとイランの「代理戦争」の様相を呈した。サウジは特に、2019年に主要な石油施設が無人機攻撃を受け、石油生産に深刻な打撃を受けた経験を持つ。こうした経緯から、サウジは一時期、イエメン内戦の泥沼化も相まってイランとの関係改善を模索し、2023年にはイランと7年ぶりに外交関係を正常化させた。しかし、これはあくまで戦術的な動きであり、イランに対する根強い警戒感を解いたわけではない。イスラエルは、2023年に始まったパレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとの衝突以降、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラや、前述のフーシ派といったイランが軍事・財政面で支援する様々な「代理勢力」に打撃を与えている。これらの代理勢力の存在は、中東各地の地域情勢を悪化させる主要因となっており、石油輸出への依存度を減らし経済の多角化を急ぎたいサウジなど湾岸諸国にとっては、非常に厄介な存在だ。したがって、中東におけるイランの影響力が低下することは、湾岸諸国にとって決して悪い話ではなく、むしろ長期的な国益にかなうという側面があるのが実情だ。
湾岸諸国の態度は、公の沈静化要求とイラン弱体化への期待という二面性を持つ。米軍基地へのリスク回避という短期的な思惑と、地域安定化や経済多角化といった長期的な目標達成のため、複雑な立ち位置を維持している。
【引用元】時事通信