50代からの老後資金準備:平均貯蓄額と必要額を知る

50歳という節目を迎えると、人生の後半、特に老後の生活が現実的な課題として目の前に迫ってきます。「このままの貯蓄で足りるのだろうか?」「年金は一体どれくらいもらえるのか?」といった漠然とした不安を抱えながらも、具体的な行動になかなか移せていない方も少なくないでしょう。50代は、まさに老後資金準備における「最後の助走期間」とも言える極めて重要な時期です。この大切な時期に、自身の経済状況を正確に把握し、無理のない範囲で着実な資金計画を立てておくことが、将来的な安心へと繋がります。

本記事では、50歳代の平均的な貯蓄額や、老後を過ごす上で必要とされる生活費の目安、そしてそこから見えてくる不足額など、老後に向けた備えを進める上で押さえておくべき重要な情報を提供します。将来への一歩を踏み出すための参考として、ぜひご活用ください。

50歳代の平均・中央値貯蓄額を把握

老後に向けた準備を始めるにあたり、まず自身の現在の経済的な立ち位置を知ることから始めましょう。他の50代の世帯がどれくらいの貯蓄を保有しているのかを、客観的なデータに基づいて確認することは、現状を把握する上で非常に役立ちます。

J-FREC 金融経済教育推進機構が実施した「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](2024年)」のデータを基に、各世代における貯蓄がある世帯の割合、そしてその平均値と中央値を見ていきましょう。この調査における貯蓄額には、日々の生活費や口座引き落としに使われる普通預金残高は含まれていません。

50歳代の金融資産保有額(貯蓄額)の平均・中央値

  • 平均値: 1,168万円
  • 中央値: 250万円

平均値は、一部の高額な金融資産を保有する世帯によって引き上げられる傾向があります。そのため、全体の中央値を見ると、平均値よりも大幅に少ない金額となっていることに気づかされます。これは、多くの50代世帯のリアルな状況を示唆していると言えるでしょう。

もちろん、単身世帯なのか、夫婦世帯なのか、扶養するお子さんがいるのかなど、個々の家庭環境によって貯蓄状況は大きく異なります。周囲と比較して必要以上に焦る必要はありませんが、「自分の現在地」をデータで確認することで、次に取るべき具体的な行動が見えてきます。

老後資金準備のイメージ。日本の紙幣と硬貨老後資金準備のイメージ。日本の紙幣と硬貨

老後の生活費と不足額の目安

老後の暮らしには、多くの方が想像する以上にお金が必要となるのが現実です。公的年金だけで生活費をどこまで賄えるのか、実際の支出目安と比較して検討してみることが重要です。

以下に示すのは、総務省の家計調査報告(2023年平均)に基づいた、65歳以上の無職夫婦世帯における平均的な月々の家計収支モデルです。年金収入を中心に生活しているケースを想定しています。

65歳以上無職夫婦世帯の家計収支(月額平均)

  • 実収入合計: 25万2,818円

    • うち社会保障給付(主に年金): 22万5,182円
    • その他: 2万7,636円
  • 実支出合計: 28万6,877円

    • 消費支出: 25万6,521円
      • 食料: 7万6,352円
      • 住居: 1万6,432円
      • 光熱・水道: 2万1,919円
      • 家具・家事用品: 1万2,265円
      • 被服及び履物: 5,590円
      • 保健医療: 1万8,383円
      • 交通・通信: 2万7,768円
      • 教育: 0円
      • 教養娯楽: 2万5,377円
      • その他の消費支出: 5万2,433円 (諸雑費: 2万2,125円, 交際費: 2万3,888円, 仕送り金: 1,040円など)
    • 非消費支出: 3万356円
      • 直接税: 1万1,162円
      • 社会保険料: 1万9,171円
  • 家計収支差(収支の黒字または赤字): -3万4,058円(毎月3万4,058円の赤字)

  • エンゲル係数(消費支出に占める食料費の割合): 29.8%

  • 平均消費性向(可処分所得に対する消費支出の割合): 115.3%

上記のデータが示すように、平均的な収支で見ると、毎月約3万4千円の赤字が発生しています。この不足分は、主に現役時代に貯めた貯蓄を取り崩すことによって賄われることになります。

さらに、このモデルケースはあくまで平均であり、「ゆとりある老後生活」を目指す場合には、旅行や趣味、自己投資、予期せぬ出費など、より多くの資金が必要となる可能性が高いです。そのため、平均的な赤字額に加え、自身の希望するライフスタイルに必要な資金を考慮する必要があります。

こうした収入と支出のギャップ、そして「ゆとり」のために必要な追加資金を早めに把握することで、「一体いくら貯蓄目標を設定すべきか」という具体的な目安が見えてきます。「何にどれくらいの費用が必要か?」を具体的に想定しながら、ご自身の老後生活をシミュレーションしてみてはいかがでしょうか。50代からの計画的な準備が、安心してセカンドライフを迎えるための鍵となります。