米アマゾンのアンディ・ジャシーCEOが、AIによる効率化を進めることで、今後数年間で管理部門の従業員数を減らすと従業員向け書簡で明らかにした。この発言は、単なる人員削減の告知にとどまらず、世界のテック大手トップが「AI導入が雇用を実際に減らす」と公に認めた初の事例として、大きな波紋を呼んでいる。特に注目すべきは、対象が「管理部門」、すなわちホワイトカラーの仕事である点だ。これまで単純作業への影響が主に語られてきたAIが、企業の根幹をなす業務構造そのものを変えようとしている事実を、アマゾンという巨大グローバル企業が示したことは、日本企業を含む世界中の組織にとって見過ごせない警鐘と言える。これは「人を前提とした業務設計」からの脱却、仕事のあり方、雇用の定義、そして求められる人材像の根本的な再定義を迫るものだ。
テック大手トップが明言した「AIリストラ」の衝撃
2025年6月17日のアマゾンによる発表は、AIが単なる効率化ツールではなく、大規模な雇用構造の再編を引き起こす現実を示唆している。アンディ・ジャシーCEOは、AIエージェントの導入により35万人に及ぶ管理部門の業務を最適化し、結果として人員削減に繋がる可能性を示唆した。これは、従来の「人が行うことを前提とした業務プロセス」を根本から見直し、「AIが最も効率的に行えるプロセス」を中心に据える企業戦略への転換を意味する。アマゾンのようなグローバルリーダーがこの方向性を明確にしたことは、競合するテック企業はもちろん、あらゆる業種の世界的な企業に対し、自社の業務設計、雇用戦略、そして必要とされるスキルセットを見直すよう強く促すメッセージとなる。
アマゾンCEO アンディ・ジャシー氏、AIによる管理部門人員削減に言及する様子
広がる「AIによる人員削減」の波:マイクロソフトの事例
アマゾン以外にも、AIによる雇用への影響は現実のものとなっている。2025年5月13日には、米マイクロソフトが全従業員の約3%、約6000人の削減を発表した。このうち4割がソフトウェアエンジニアだったと報じられており、その主な要因としてAIによる業務自動化や組織再編が挙げられている。AIが自律的にコードを生成する能力を高めるにつれて、「プログラミングができる」という単一スキルだけでは競争力が低下しつつある現実が浮き彫りになった形だ。もはや単純な実装能力だけでなく、AIをどのように活用し、課題を定義し、システム全体を設計する能力が技術者にも求められている。
エリート層にまで及ぶ「AI失業」のリスク
このような変化は、若者のキャリアパスにも深刻な影響を与え始めている。2025年春、FRB(連邦準備制度理事会)が発表した大卒者の新卒失業率ランキングでは、かつて「就職に最も有利」とされたComputer Engineering、Computer Science、Information Systemsといったテック系の人気専攻が上位にランクインした。これは、情報科学分野ですらAIによる代替のリスクに直面していることを示している。
さらに衝撃的なのは、ハーバード大学やスタンフォード大学といった世界トップクラスのMBA(経営学修士)課程修了者の就職難である。卒業後3ヶ月時点での無職率が2割前後に達するという前例のない状況が報告されている。これは、AIが資料作成、定量分析、市場調査といった、これまでMBAホルダーが担ってきた業務の多くを効率的にこなせるようになったことが背景にある。実際に、従来MBA卒業生の主要な就職先であったアマゾン、グーグル、マイクロソフト、マッキンゼーなどのテクノロジーやコンサルティング業界が、軒並み採用数を大幅に削減している。
今、アメリカでは「エリートですら安泰ではない」時代が現実化していると言える。情報科学専攻やエンジニア職はもちろん、「安全圏」と見なされてきたMBAホルダーでさえ、AIによる自動化の波に直面している。これは、職種やスキルレベルに関わらず、すべての労働者に対して、AIと共存し、あるいはAIをツールとして活用することで自身の役割と価値を再定義していく必要性を示唆している。特に日本企業においては、米国での先行事例から学び、来るべきAI時代に向けた働き方、人材育成、そして抜本的な業務・組織構造の見直しを急ぐ必要があるだろう。