多くの人が「終活」について考える現代において、愛知県安城市で行われた「生前葬」に注目が集まっています。これは、末期がんを告知された一人の男性が、生前に感謝を伝えるために企画した特別な催しです。
この「生前葬」、本人は「感謝祭」と名付けたイベントの主役は、安城市に住む東川勝利さん、53歳です。東川さんは妻と二人の子どもを持つ一家の大黒柱であり、脱サラして25年間、飲食店経営に携わってきました。現在は愛知県内で3店舗のうなぎ店を営み、事業も軌道に乗ってきた矢先でした。高校時代はラグビーで鳴らしたという、元来エネルギッシュな人物です。
膵臓がんを告知され、生前葬「感謝祭」を開催した東川勝利さん(53)
突然の膵臓がん告知と心境の変化
東川さんの人生は、去年の2月2日、突然の膵臓がん告知によって一変しました。診断を受ける前から体調の異変は感じていたものの、がんであるとは想像していなかったと言います。医師から余命について話がありましたが、あまりのショックから東川さんはその言葉を聞かない選択をしました。妻もその選択を支持し、二人で病院を後にしました。
病を知ってから、東川さんは次第に仕事に手がつかなくなり、塞ぎ込むようになりました。「昔から前向きで行動力が取りえだったが、病気になると全然駄目になった。誰にも知られずに最期を迎えたいとさえ思っていた。和室からほとんど出てこなかった」と当時の苦しい胸の内を明かしています。
しかし、そんな東川さんの心を動かしたのは、友人たちの存在でした。多くの友人が次々と彼を訪ね、声をかけてくれたのです。「いろんな人と会っていく中で、自分は一人で生きているのではなく、多くの人に生かされていると感じることができた」と東川さんは語ります。この気づきが、彼の中に「お世話になった人にきちんと『ありがとう』と伝えたい」という強い思いを芽生えさせました。
「感謝祭」という名の生前葬を開催
「ありがとう」の思いを実現するため、東川さんは半年間をかけて葬儀会社と相談を重ね、「感謝祭」と名付けた生前葬を開くことを決意しました。当日は100人を超える人々が集まり、会場はまるで結婚披露宴のような賑わいを見せました。参加者からは「東川さんらしい」「こんなの初めてで予想外」といった声が聞かれました。
この感謝祭は、参加者が食事を共にしながら、生前の東川さんと交流し、感謝の言葉を伝え合う場となりました。会費は一人6000円に設定されました。これは単なる別れを告げる場ではなく、これまでの人生で培ってきた人間関係を祝い、感謝を分かち合うポジティブな機会として企画されたのです。
自らの命と向き合い、最期まで前向きに「終活」を行う東川さんの姿は、多くの人々に生きること、そして人との繋がりの大切さを改めて考えさせるものとなりました。