群馬・大泉町長が示す「多様な町」の未来像 SNSで再注目の理由

在日外国人へのヘイトスピーチが問題となる中、群馬県大泉町に注目が集まっている。日本の自治体でも有数の外国籍住民比率(人口の約2割、51カ国)を誇るこの町を率いるのは、村山俊明町長(61)だ。彼のアプローチとその刺激的な政策が、AERA 2024年2月5日号に掲載された「現代の肖像」記事を機に、今再びSNS上で議論を呼んでいる。自らを「俺の町」と呼び、票にならない外国籍住民のためにも奔走する町長の姿は、賛否両論を巻き起こしながらも、多文化共生と地域活性化という日本の将来的な課題における一つの実験例として見られている。

異例の政治家デビュー

村山町長は、自身の政治家人生の始まりを赤裸々に語る。34歳での町議選初出馬は、地域のためといった一般的な動機とは異なったという。2度の離婚経験があり、前々妻との間の息子に面会させてもらえなかったことが原動力となった。「養育費は払っていたが会えず、幼稚園に行っても追い返された。(前々妻に)三行半(みくだりはん)を叩きつけられ、世間様からも相手にされず、『これじゃいけない』と自分が情けなくなった」。世間から認められる存在になりたいという思いが、政治の道へ進むきっかけだったと笑いながら話す。父親に「このままじゃ生きていけない。子どもの親として立派な姿を見せたい」と打ち明けると、「へんな薬でもやってるのか」と疑われたというほど、その動機は個人的かつ強烈なものだった。

多様な住民が暮らす町「大泉町」

群馬県大泉町は人口約4万人と県内でも小さな自治体ながら、その住民構成は特異だ。人口の2割、実に5人にひとりが外国籍住民であり、51カ国もの人々が暮らしている。こうした背景から、大泉町は「共生社会」「外国人労働者」といった現代日本の重要な社会的論点が凝縮された場所として、メディアや専門家から「実験室」のように見つめられている。村山町長は、このような多様な住民が暮らす町を「俺の町」と呼び、その特殊性ゆえにメディアの注目を集める人物となった。

多文化共生を象徴する群馬県大泉町の活きな世界のグルメ横丁での多国籍屋台イベントの様子多文化共生を象徴する群馬県大泉町の活きな世界のグルメ横丁での多国籍屋台イベントの様子

先駆的な政策と賛否

町長就任後、村山氏は次々と刺激的な政策を打ち出している。2017年には「あらゆる差別の撤廃をめざす人権擁護条例」を施行し、差別のない社会を目指す姿勢を明確にした。2019年には、全国の町村で初めて性的少数者のカップルを婚姻と同等とみなす「パートナーシップ宣誓制度」を導入し、多様な性のあり方を認める環境整備を進めた。さらに、2023年12月には、町職員の採用試験における国籍条項を撤廃し、永住者や特別永住者の外国籍住民にも公務員への道を開いたと発表した。これらの政策は、町の現状と将来を見据えたものとして注目される一方、大胆であるがゆえに賛否両論を巻き起こしている。

群馬県大泉町長、村山俊明氏が町内のジムで汗を流す姿群馬県大泉町長、村山俊明氏が町内のジムで汗を流す姿

まとめ

群馬県大泉町の村山俊明町長は、その異色の経歴と、多様な住民が共生する町の課題に真っ向から取り組む姿勢で注目されている。差別撤廃、多様な性、外国人住民の登用といった先駆的な政策は、日本の多文化共生社会のあり方を問い直すものであり、「実験室」と呼ばれる大泉町の挑戦は、日本の未来を占う上で重要な示唆を与えている。彼の「俺の町」に対する情熱と、賛否を厭わない信念に基づいた行動が、今後どのように町を変えていくのか、引き続き注目される。

参考資料