今年1月、兵庫県の郵便局で運転手の点呼未実施が発覚した問題は、日本郵政の社内調査により、同様の不適切点呼が全国で蔓延している現状を明らかにした。国土交通省はこれを受け、郵便物の自動車運送事業許可を取り消す方針を示すなど、極めて重い処分を検討している。この問題の背景には何があるのか。現役の郵便局員が、現場で日常的に行われている点呼の実態について証言する。
不適切点呼問題の背景
日本郵政の調査によれば、全国3188局のうち、実に75%にあたる2391局で法令違反の疑いがある不適切な点呼が確認された。これは個別の事案ではなく、組織全体に広がる構造的な問題であることを示唆している。国土交通省が事業許可の取り消しという厳しい姿勢を見せているのは、安全運行に関わる根幹ルールが長年にわたり軽視されてきたことへの危機感の表れと言える。
現場での「形骸化」の実態
都内の大型郵便局に勤務するこの現役局員によると、彼の局では配達員約120人が所属し、形式的には毎日の点呼が行われていた。朝8時の出勤後、郵便局独自の体操を経て、各班の班長がアルコール検査器を使用し、数値が「0.00mg/L」であることを確認し、「異常なし」のハンコを押して車両の鍵を渡す、という手順だった。しかし、この手順は実質的には形骸化していたという。
郵便局での点呼問題について語る現役配達員
アルコールが残っていても乗務
機械の不具合で反応がない場合や、前日の飲酒でアルコールが完全に抜けていない場合でも、班長はしばしば「0.00mg/L」としてハンコを押し、鍵を渡していた。酩酊して明らかに運転が危ない状態の職員は内務作業に回す配慮はあったものの、多少アルコールが残っている程度であれば、「水でも飲んでおいて」と指示し、そのまま乗務させることもあったという。この局員は、午前中だけ自転車での配達をさせたケースもあり、自転車も飲酒運転の対象となるという認識が当時はなかったと語る。幸い、彼の知る限りでは、このような状態での運転に起因する事故は発生していないとのことだ。
権限なき点呼、安全への影響
さらに問題は、点呼を行う権限を持たない局員が、班長や副班長の代わりにアルコール検査を実施し、ハンコを押して鍵を渡す行為が常態化していたことだという。証言した局員自身も、権限がないにもかかわらず、何度も点呼業務を行っていたと明かす。これは、単なる手続きの不備ではなく、安全管理体制そのものが内部から崩壊していた可能性を示唆している。法令で定められた点呼が、形式化、不正化、そして無権限者による代行という三重の不備を抱えていた実態が浮かび上がる。
結論
今回の日本郵政における広範な不適切点呼問題は、安全運行を支えるべき基本的な法令遵守が、現場レベルで組織的に軽視されていた現実を浮き彫りにした。現役局員の証言は、形だけの点呼やアルコール残存状態での乗務黙認など、安全管理の根幹を揺るがす実態が存在したことを示している。国土交通省の厳しい処分は強い警告であり、日本郵政には安全管理体制の抜本的な見直しが求められる。
(報道より)