パレスチナ自治区ガザ地区の中部および南部で6月24日、援助物資の配給を待っていた人々がイスラエル軍に発砲され、救助隊や病院の発表によると、少なくとも46人が死亡した。この事態に対し、国連機関は、アメリカとイスラエルが支援する「ガザ人道財団(GHF)」による食料配給制度を強く非難しており、ある高官はこのシステムを「忌まわしい死のわなだ」と形容している。こうした多数の死傷事案は最近ほぼ日常的に発生しているが、イスラエルによるイラン攻撃以降、ガザ地区外では比較的注目を集めていないのが現状だ。国連は、GHFが5月下旬に活動を開始して以降、最新の死者数を含まずに、イスラエル軍による銃撃や砲撃で死亡したパレスチナ人がすでに410人以上に上ると報告している。
ガザ市民からは絶望の声が上がっている。ウム・ラエド・アルヌアイジ氏は、空腹の家族のために夜通し食料を取りに行った息子が銃撃で負傷したことを訴え、「なぜ私たちの子どもの命は、こんなに軽く見られているのか」と問いかけた。「息子は、自分ときょうだいが食べるために、わずかな小麦粉を手に入れようとしただけだ。それなのに今、集中治療室にいる」。
ガザ中部ヌセイラトにあるアル・アウダ病院では、銃撃を受けた若者たちが次々と運び込まれ、うめきながら血まみれの状態で治療を受ける混乱した光景が見られた。まもなく病院のベッドは全て埋まり、負傷者たちは床に横たえられた。ある高齢の男性は死亡した状態で運び込まれ、妻がその顔を抱きながら泣き崩れる様子も見られた。病院関係者と、ガザのイスラム組織ハマスが運営する民間防衛隊によると、ヌセイラトでの24日の発砲で少なくとも21人が死亡し、約150人が負傷した。目撃者によれば、イスラエル軍の管理区域内にあるGHFの施設付近に数千人が集まっていたところ、イスラエル兵が発砲したという。
イスラエル国防軍(IDF)は、今回の事案について「ネツァリム回廊で活動中の部隊の近くで集団を確認した」と発表した。また、「同地域でのIDFの発砲により負傷者が出たとの報告を受けており、詳細を調査中だ」と述べた。一方で、GHFは「今朝、当団体のいかなる施設付近でも事案は発生していない」と発表し、事案を否定している。
救急隊員や救助関係者によると、24日朝には、同じくGHFが運営するガザ南部の施設付近でも、少なくとも25人が死亡した。目撃者の一人はBBCに対し、午前5時にラファ北部の施設に到着したが、午前10時の開場直前にイスラエル軍の戦車が接近し、何の警告もなく発砲してきたと証言した。「銃撃は市民に直接向けられ、あたり一面が血まみれになった」と語るハテム・アブ・ルジレ氏は、「周りの人がみんなけがをした。誰にも助けられなかったけが人が30人以上はいたかもしれない。私たちは親族だけを何とか助け出して、逃げた」と当時の状況を述べた。この南部での事案について、IDFはBBCに対し、「報道されている内容とは異なり、IDFはラファの援助配給所で発生したとされる事件について把握していない」と回答している。
イスラエルは1カ月前にガザ地区の全面封鎖を緩和し、その数日後にGHFが活動を開始した。GHFは公式には民間団体とされているものの、資金の出所は不透明であり、アメリカとイスラエルの支援を受けているとされる。また、武装した民間警備会社を使用していることも指摘されている。国連や主要な援助団体は、GHFがイスラエルの対ハマス戦争における目的に協力しており、人道原則に反しているとして、協力を拒否している。これに対し、イスラエルはGHFを、ガザ地区に残るハマスの支配を弱体化させる新たな援助計画の中核と位置づけている。
最新の事案が報じられる中、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のサミーン・アル・ヒータン報道官はジュネーヴでの記者会見で、現在の援助体制を強く非難した。「イスラエルの軍事化された人道支援の仕組みは、援助配分に関する国際基準と矛盾している」と述べた上で、「食料を市民に対する兵器にしてしまったことに加え、生命維持に必要なサービスへのアクセスを制限または遮断することは、戦争犯罪に当たる」と指摘した。報道官は、戦争犯罪が成立するかどうかは司法の判断に委ねられるべきだと付け加えた。
ガザ中部ヌセイラトにあるアル・アウダ病院に運び込まれた、援助物資配給での発砲により負傷したパレスチナ人たち。混乱した様子が見られる。
一方、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長はドイツ・ベルリンでの記者会見で、「新たに創設された、いわゆる支援メカニズムは、必死に生きようとする人々を侮辱しおとしめる、忌まわしいものだ。命を救うどころか、命を奪う死のわなだ」と厳しく批判した。こうした国連による批判に対する見解を問われたIDFは、「GHFがガザ住民への援助配分を独立して行うことを承認している。また国際法にのっとって、その安全かつ継続的な配分を確保するために取り組んでいる」と回答している。
イスラエルは数週間前、ガザ地区での戦争の新たな段階を発表したが、まだ実行に移していない。この計画では、将来的にはGHFだけが援助配給拠点を運営することが想定されている。イスラエルは現時点では引き続き、国連や他の援助団体向けの援助物資を積んだトラック数十台のガザ入りを許可している状況だ。6月21日には、非営利団体「ワールド・セントラル・キッチン(WCK)」が、12週間以上ぶりにガザの現地チームに援助物資が届き、一部の拠点での炊き出しを再開できたと発表している。しかし、食料の供給量は依然として不十分なままであり、専門家らはガザが飢饉の瀬戸際にあると警告を発している。
ガザ市では、4人の娘を持つ父親が、家族はパンと塩だけでしのいでいるものの、「GHFの援助センターに命をかけて行くつもりはない」と語った。「あそこは『死のゾーン』と呼ばれている」と語るマフムード・アル・グーラ氏は、「息子はすでに殉教した。『小麦粉1袋を取りに行けば、自分がその袋に入れられて戻ってくるのではないか』と恐れている。毎日、人々がそこへ行って命を落としている。私たちはどうすればいいのか」と、切迫した状況と自身の恐怖を吐露した。
ガザ地区における援助物資配給を巡る発砲事案とそれに伴う多数の死傷者発生は、現地の深刻な人道危機を改めて浮き彫りにしている。特に、イスラエルとアメリカが支援するGHFを通じた新たな援助システムが、国連機関から「死のわな」とまで酷評されていることは、その運用と安全性に対する国際的な懸念の大きさを物語っている。支援を待つ市民が命を落とす状況が続く中、国際社会はガザへの安全かつ十分な人道支援物資の供給をいかに確保するかが、喫緊の課題となっている。イスラエル側の主張と、現場の悲惨な現実、そして国際機関からの厳しい批判の間には大きな隔たりがあり、事態の改善に向けた道筋は依然として不透明だ。
参考文献
- BBC News (英語記事 “UN condemns Gaza aid ‘death trap’ as dozens reported killed by Israeli fire”)
- Yahoo News (参照元記事URL: https://news.yahoo.co.jp/articles/a678fcd28629ceb2817cfa64e454fca48df242d9)