老後の移住というと、リタイア後に都市から地方へ移住するイメージが強いですが、近年、子供のいる東京に地方から移住する人がじわりと増えています。
ただ、年を重ねてから初めて東京に住むとなると、子供のそばで暮らせる安心感がある一方、生活に適応できるかといった不安や、住み慣れた街を離れる寂しさなどが立ちはだかり、なかなか決断できるものではありません。
そこで本連載「東京“老後”移住」では、その“勇気ある決断”をした経験者たちの話を聞き、移住を考えている人の参考になるお話をお届けします。
「東京でアーティストになりたい」――。そんな大きな夢を抱き、59歳にして香川県から東京に移住した夫妻がいる。仲山昌樹さん(62)、法子さん(62)夫妻だ。2人は香川で生活しながら、同じタイミングで「第二の人生」に踏み出そうとしていた。「東京」にたどり着くまで約30年。それまでの経緯を聞いた。
■30年ぶりの東京で再出発
6月上旬、東京都江東区。3年前、この地に移住した仲山さん夫婦は、約束の時間ちょうどに現れた。2人はともに服のセンスがよく、一見してアーティスト気質だというのが分かった。
この連載「東京“老後”移住」の過去の記事を偶然見つけた昌樹さんは「僕らも同じだ」と感じたという。
「香川から東京に来ると言ったら、周りは驚いていました。でも、やりたいことが一致していたんです。僕は歌手、妻は画家。双子の息子も応援してくれました」
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夫妻は20代の頃、東京・練馬区で暮らした経験がある。だが、その後は香川県で30年。双子の息子2人は大学、就職と東京にいたため、東京移住によって約5年ぶりに仲山家は一つ屋根の下で暮らすことになった。
「2人が東京で一緒に住んでくれたことがありがたかったです。家賃は息子も払ってくれた。弟は、現在は家を出ていますが、彼らがいなければ家賃の高い東京での生活は厳しかったです」
長野県出身の昌樹さんは手先が器用で、性格は真面目な職人気質。20歳のころに上京してさまざまな職に就いたが、いずれも長続きしなかった。大工、土木、不動産営業、調査会社、駅の売店――、当然収入も安定せずに苦しい生活が続いた。