夏に向けてダイエットを意識する人が増えるこの時期、巷には様々なダイエット情報が溢れています。「筋トレで基礎代謝を上げれば痩せる」「白米なしなら焼き肉は太らない」といった“常識”とされるものも少なくありません。しかし、これらは必ずしも日本人にとって効果的な方法とは限らない、と指摘する専門家がいます。長年多くの患者を診てきた内科医・産業医の奥田昌子医師は、日本人の体質を考慮しない欧米式のダイエット法では、むしろ痩せないどころか太ってしまうケースも少なくないと言います。
奥田医師の著書『これをやめれば痩せられる』では、多くの人が良かれと思って実践しているダイエットの“NG習慣”を医学的な根拠に基づいて解説しています。日本人は「内臓脂肪がつきやすい」「筋肉がつきにくい」「夏は基礎代謝量が低下しやすい」という体質的な特性を持っており、これらの点を踏まえずに海外で流行したダイエット法をそのまま取り入れることには落とし穴があるのです。効果的なダイエットへの近道は、体質に合わない無駄な努力をやめることから始まります。
巷でブームとなっている糖質制限や筋トレも、日本人の体質を考慮すると見直すべき習慣かもしれません。「筋トレで筋肉を大きくすれば基礎代謝が上がり、脂肪が燃えやすくなる」という説は広く信じられています。確かに筋肉量が増えれば基礎代謝は上がります。しかし、奥田医師は、この方法が日本人にとって非効率である理由を、日本人の筋肉の特性から説明しています。
人間の筋肉は、持久力に関わる赤い繊維と瞬発力に関わる白い繊維で構成されており、その割合は人種によって異なります。欧米系やアフリカ系の人が白い繊維を約70%持つのに対し、日本人は赤い繊維が約70%を占めています。そして、筋トレによって主に大きくなるのは、日本人が30%しか持たない白い繊維なのです。つまり、日本人が筋トレで目覚ましい筋肉量増加を期待するのは難しく、それによって基礎代謝量が劇的に上がることも期待できません。筋トレだけで痩せようとするのは、日本人にとっては非常に効率の悪いダイエット法と言わざるを得ないのです。
奥田昌子医師が語る、脂肪燃焼に関するダイエット神話の誤り
では、日本人の体質に合った運動方法とは何でしょうか。ここで重要になるのが、日本人に特有の「内臓脂肪がつきやすい」という体質です。体脂肪には、全身の表面につく皮下脂肪と、お腹周りにつく内臓脂肪の2種類があります。内臓脂肪は生活習慣病のリスクを高める危険な脂肪とされており、太る際にはまず内臓脂肪から増えていきます。これは健康面でもダイエット面でも日本人のウィークポイントですが、幸いなことに、痩せる際も内臓脂肪から優先的に減少するというプラスの側面があります。
運動の種類という点では、皮下脂肪は筋トレ(無酸素運動)である程度落とすことが可能ですが、内臓脂肪を減らすには「有酸素運動」が必須です。筋トレでは内臓脂肪はほとんど減少しません。そのため、日本人がダイエット、特に健康リスクの高い内臓脂肪を効果的に減らしたいのであれば、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動に重点を置くのが最も理にかなった方法です。自身の体質を理解し、それに合った運動を選択することが、効率良く健康的に目標を達成するための鍵となるでしょう。
参考文献: