韓国の衝撃的な出生率0.72:若者を蝕む「過度な期待」と「休息の増加」の現実

世界が注目する少子化問題の深刻さは、東アジア諸国で特に顕著です。中でも韓国の合計特殊出生率は、2015年から減少の一途をたどり、2023年には過去最低の0.72を記録しました。この驚異的な数字は、将来的な人口減少と社会構造の変化を強く示唆しており、日本を含む近隣諸国にとっても看過できない社会問題として浮上しています。一体何が韓国の若者たちの生活と将来への希望を奪い、このような結果を招いているのでしょうか。フリーライターの菅野朋子氏の分析では、SNSの普及による「つながりすぎ」の弊害もその一因として挙げられています。本稿では、若者の精神的負担と「休息の増加」という現象に焦点を当て、韓国社会が直面する危機的状況を深く掘り下げていきます。

SKY大学の学生が精神安定剤に頼る現実

韓国の社会が若者に課すプレッシャーは計り知れません。国内最難関とされるソウル大学、高麗大学、延世大学(通称SKY)の教授が語ったところによると、近年、精神安定剤に頼る学生が増加しているといいます。教授は、気分が落ち込んだり、反対に過度にハイテンションな様子の学生には積極的に声をかけるようにしているそうです。

この10年間で、学生たちが集中力を高めたい時や気分が落ち込んだ際に、精神安定剤を常用するケースが目立つようになりました。親や周囲の期待を背負い、ようやくソウルの名門大学に入学しても、その先の「大企業に入れるのか」「自尊心を保てる仕事に就けるのか」という不安が常に付きまといます。現代の若者たちは兄弟姉妹が少ないため、親の期待が一身に集中しやすく、これが過度なプレッシャーとして精神的な負担となっている現状が浮き彫りになっています。

「ちょっと休む」若者たちの増加とその背景

このような社会の強迫観念と過大な期待の反動として、韓国では過去10年間で「ちょっと休む」青年が顕著に増加しています。「ちょっと休む」とは、特別な理由なく、調査直前の1週間で学業も就業も行わなかった人々を指す言葉です。

2025年3月、韓国の統計庁は、29歳未満の生産年齢人口の中で、「ちょっと休んだ」人が50万4000人に上ると発表しました。これは、集計を開始した2003年の23万6000人から実に2倍以上に膨れ上がった数字です。彼らが休んだ期間は平均22.7カ月にも及び、その理由として韓国雇用情報院の調査では「自分に適合した仕事の不足」が最も多く、次いで「教育・自己開発」「バーンアウト(燃え尽き症候群)」「再充電の必要性」が挙げられています。

日本でいう「ニート」と類似するこうした青年たちの傾向は、実は世界共通の現象です。2023年の国際労働機構(ILO)の報告によれば、全世界で学業も経済活動もしない青年の割合は20.4%に達するとされています。また、韓国では2025年5月時点で、60歳以上の経済活動参加率が49.4%となり、青年層(15〜29歳)の49.5%とわずか0.1ポイント差にまで迫るという衝撃的なデータも示されており、若者の社会参加の停滞と高齢者の労働力への依存が高まる社会構造の変化を象徴しています。

韓国ソウルの街角で考え込む若者。少子化と若者の精神的負担の深刻さを象徴するイメージ韓国ソウルの街角で考え込む若者。少子化と若者の精神的負担の深刻さを象徴するイメージ

まとめと社会への示唆

韓国の合計特殊出生率0.72という記録的な低さは、単なる統計上の数字以上の意味を持ちます。それは、若者たちが直面する極度の精神的プレッシャー、社会からの過度な期待、そしてそれに伴う「休息の増加」という現実が、次世代の形成に深刻な影響を与えていることを示唆しています。名門大学に進学してもなお続く将来への不安、適職を見つけられない苦悩、そしてバーンアウトによる心身の疲弊は、若者たちのライフプランに大きな影を落とし、結果として出生率の低下に繋がっていると言えるでしょう。

この問題は韓国固有のものではなく、同様の課題を抱える日本を含む多くの先進国にとって、他山の石とすべき重要な教訓を提供しています。若者たちが安心して未来を描き、社会に貢献できる環境をいかに構築していくか、その答えを見出すことが、持続可能な社会を築くための喫緊の課題となっています。

参考文献

  • 菅野朋子 (KADOKAWA). 『韓国消滅の危機 人口激減社会のリアル』.
  • 韓国統計庁 (Statistics Korea). 2025年3月発表データ.
  • 韓国雇用情報院 (Korea Employment Information Service) 調査.
  • 国際労働機構 (International Labour Organization: ILO). 2023年報告.
  • PRESIDENT Online. 「韓国の合計特殊出生率は2015年から減少に転じ、2023年に0.72で過去最低を叩き出した。一体何が起きているのか。」 (一部再編集).