人はなぜ悲劇を愛するのか。哲学者アウグスティヌスは『告白』の中で、自分は不幸になりたくないが、他人に憐れみをかけることは喜び、そのために悲しみを愛すると述べた。本シリーズでは、見る者の心を深く揺さぶる「鬱な日本映画」を紹介する。今回は、阪本順治監督、江口洋介主演の社会派サスペンス『闇の子供たち』(2008年)を取り上げる。
作品概要と物語
本作は、骨太な社会派テーマを扱う手腕に定評のある阪本順治監督が、梁石日の同名小説を映像化した作品だ。主演は江口洋介が務め、宮﨑あおい、妻夫木聡、佐藤浩市、鈴木砂羽といった豪華俳優陣が脇を固める。
物語はタイのバンコクを舞台に展開する。日本新聞社バンコク支局のジャーナリスト南部(江口洋介)は、現地の臓器密売に関する調査を依頼される。時を同じくして、ボランティアとしてバンコクの社会福祉センターに赴任した恵子(宮﨑あおい)は、スラム街の少女が売春宿に売られた事実を知る。
二人の追跡を通して描かれるのは、子供たちが心臓などの臓器移植のために売買されるという非道な現実だ。作中には、日本の富裕層がタイの子供の臓器を購入しようとする生々しい描写も登場する。
江口洋介演じるジャーナリスト南部(映画『闇の子供たち』より)
その衝撃的な内容ゆえ、本作は論争を呼び、バンコク国際映画祭では「タイのイメージを極端に損なう」として上映が中止された経緯がある。作品内の描写全てが事実とは限らないため、「ドキュメンタリーを基にしたフィクション」として観るのが適切だろう。しかし、社会の暗部に対する問題提起としての力は極めて大きい。
衝撃的な結末
本作の見どころであり、最も心をえぐるのがその結末だ。臓器密売・人身売買を追跡する中で、南部は命を落とすことになる。その後、彼の遺品を整理していた助手(妻夫木聡)は、南部が幼児売春に関与していたことを強く示唆する写真を見つけてしまうのだ。
この予想外の、そしてあまりに重い結末は、観る者に「真実とは一体どこにあるのか」「善悪の境界線は存在するのか」といった根源的な問いを突きつけ、深い余韻を残す。
結論
『闇の子供たち』は、目を覆いたくなるような現実と人間の複雑な心理を容赦なく描き出す。特に、善悪の定義を揺るがすようなラストは、観る者の心に重く迫り、まさしく「鬱映画」として記憶されるべき作品だ。社会の暗部と倫理を問うその真摯な姿勢は、観賞後も長く忘れられないだろう。
参考資料:
https://news.yahoo.co.jp/articles/401edc918e19d3bea3d32ad518015e0205b43386