スウェーデン独自のパンデミック戦略:テグネル氏の証言と現場の現実

2007年にスウェーデンへ移住し、カロリンスカ大学病院で泌尿器外科医として勤務する宮川絢子博士は、元国家疫学者アンデシュ・テグネル氏の著書『学際的パンデミック対策:新型コロナウイルスと戦ったスウェーデン元国家疫学者の証言』(法研 刊)を翻訳し、日本の読者へその真意を伝えている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック期、多くの国がロックダウンという強硬策を選択する中、スウェーデンは独自の道を歩んだ。この選択は「無策」や「人命軽視」といった誤解を生んだが、テグネル氏の著書と宮川博士の解説、そして日本の読者向けに行われたテグネル氏へのインタビュー内容を通して、その実態が明らかにされている。

「ミニスターコントロール禁止原則」:スウェーデンのパンデミック対応の根幹

スウェーデンの新型コロナ対策が他国と一線を画したのは、その行政システムに深く根差した「ミニスターコントロール禁止原則」に由来する。これは、行政庁が政治的圧力から独立し、独自の判断で業務を遂行できるという原則である。元駐スウェーデン日本国特命全権大使の渡邉芳樹氏も推薦文でこの原則に言及しており、他国が社会からの批判を恐れ、エビデンスが不十分な状況でも強硬な手段を選ばざるを得なかったのに対し、スウェーデンはこの原則のおかげで、科学的根拠に基づき、社会の批判に左右されずに一貫した道を歩むことができたと指摘されている。

スウェーデン独自のパンデミック戦略を率いたアンデシュ・テグネル元国家疫学者スウェーデン独自のパンデミック戦略を率いたアンデシュ・テグネル元国家疫学者

医療の最前線から見た現実:カロリンスカ大学病院の闘い

2019年の中国武漢でのエピデミック発生後、スウェーデンでも2020年2月に最初の感染者が確認された。特に冬季の「スポーツ休暇」で約100万人が海外旅行から帰国したことにより、国内での感染拡大が加速した。ストックホルムでは、5つの大規模病院が緊急搬送と集中治療を含む入院治療を担った。宮川博士が勤務するカロリンスカ大学病院は、ECMO床10床を含め、通常の約400%増となる200床のICUベッドを確保し、国内で最も多くのCOVID-19患者の治療にあたった。医療従事者も専門領域を超えて感染者治療に尽力し、筆舌に尽くしがたい過酷な現場で、ガスマスクを装着してうつ伏せの患者を診療する壮絶な状況を宮川博士自身も経験したと語っている。

スウェーデンのパンデミック対策は、短絡的な「無策」と評されるべきではなく、「ミニスターコントロール禁止原則」という国の根幹を成す原則に基づき、科学的エビデンスと医療現場の努力によって支えられていたことが、宮川博士の翻訳したテグネル氏の著書から明確に理解できる。この一冊は、パンデミックにおける公共政策と医療の役割について、日本の読者に深く考察する機会を提供する。

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