アジア開発銀行(ADB)浅川雅嗣新総裁の選出が2日午前、発表された。浅川氏は産経新聞の単独インタビューに答え、アジアの市場統合を進めるため、域内貿易などで使う通貨について、現状の過度なドル依存からの脱却を後押ししていく考えを示した。ADBが取り組むべき重要課題としては、「貧困」「環境」などを指摘。アジア太平洋地域以外の課題解決にも貢献する「世界のコンサル役」を目指したいとした。
浅川氏はアジアでの金融市場の状況について、「1997年のアジア通貨危機をきっかけに、多国間の通貨協定『チェンマイ・イニシアチブ』が作られるなど、アジアでは金融的な協力が先に始まった」と指摘した。
ただ、モノやサービスを取引するアジア域内の「財市場」については、「貿易で使われている主要な通貨が(域内の国などが発行する)『域内通貨』でなくドルとなっている。財市場や金融・貨幣市場の統合を進めるには、ドルでなく、もっと域内通貨を使うようになる必要がある」とし、その後押しを「どこまでできるかだ」とした。
使う通貨としては、円など特定の国が発行するものである必要はなく、「(かつて共通通貨として構想が浮上した)『アジア通貨単位(ACU)』のようなものでもいい」と指摘。「一朝一夕には実現できない」としつつも、実現すれば、「アジア通貨は今のようにドルとのレートを気にするのでなく、アジア通貨同士のレートの安定化に関心を移すかもしれない」と話した。
一方、ADBが「いの一番に手をつけなければならない」のは、貧困問題と強調。浅川氏は「アジア太平洋地域にも絶対的貧困層がおり、所得の不平等が広がっている」とし、高成長の維持や人口増加の抑制、社会福祉制度に加え、「教育や保険制度の充実といったソフトな社会インフラへの投資が大事だ」と述べた。
さらに、ADBが長期戦略で掲げる、男女平等の促進や気候変動対応に関わる業務件数をそれぞれ、2030年までに全体の75%とする目標の達成なども「しっかりやっていく」とした。
また、「私自身が加盟68カ国・地域それぞれの意見に耳を傾け、個々の事情に配慮した、迅速で実用的なアドバイスをしていく」と強調。「アジアは高齢化といった、世界が経験したことのない課題が次々と起きている」とした上で、「世界のほかの国が同じ課題に見舞われれば、アジアで『ファミリードクター』として示した処方箋を使って貢献していきたい」と述べた。