ネット記事、テレビのニュースを中心に「老後はこれだけ必要」といった議論が盛んですが、いったいどの意見が正しいのでしょうか。結論ありきの意見に煽られてばかりでは不安が募る一方です。本記事では、保坂隆氏の著書『精神科医が教える 50代からの心おだやかな暮らし方』(有隣堂)より、50代からの心おだやかな暮らし方について解説します。
老後資金「4,000万円」?
インターネットで調べものをしていて、「4,000万円の蓄えがあっても老後の生活は破綻する」という記事が目に留まりました。最近は新聞や雑誌、テレビなどでも「安心して老後を過ごすためには〇千万円が必要」といった記事や話をよく見かけます。なかには「1億円あっても足りない」という評論家もいるため、50代を迎え、定年という言葉にリアリティを感じる人や、今現在それほど蓄えのない人、出向などで収入が目減りする可能性を抱えた人などは、かなり不安になると思います。その不安は大きなストレスになり、イライラも募るでしょう。
でも、「預貯金が1億円なければ幸せな老後を過ごせませんよ」と言われたところで、これから蓄えを増やすなんてことは、願ったところで正直、非現実的だと思います。もちろん、状況は私も同じです。そう言うとすぐに「医者は金持ちだから、そんなはずはない」と言われるのですが、永年勤務医をしてきた私は、残念ながら、そんな金額とは無縁です。
無縁なことを考えるのはストレスを増やすだけで、何のメリットもありません。だから、私はそんな記事や話にはできるだけ目や耳を貸さないようにしています。一度、波立ってしまった感情を静めるのは難しいので、感情が波立つような情報には近寄らないほうがいいでしょう。
とはいえ、お金のことはどうしても気になりますね。そこで、「4,000万円の蓄えがあっても老後の生活は破綻する」という記事を読んでみました。すると、定年後も毎月の支出額が50万円を超えるという前提で書かれたものだとわかりました。
毎月50万円の支出ということは、年に600万円! 家賃や光熱費が含まれているとはいえ、子どもの教育費や住宅ローンを除けば現役時代だってこんなにお金を使っていた人はそういないはず。さらに詳しく見ていくと、食費が10万円、交際費が3万円、さらに小遣いがこれとは別に5万円計上されているなど、まるでバブル時代の家計簿ではありませんか。
多くの人は定年後、年金や蓄え、あるいはわずかな収入しかないわけで、これだけ湯水のようにお金を使っていたら、生活が破綻するのは当たり前でしょう。
私も何冊か本を書いていて、取材に応じることもあるので、よくわかるのですが、原稿や記事というのは「はじめに結論ありき」でまとめられるケースが多いようです。今回取り上げた記事も、もしかすると「蓄えが4,000万円あっても生活が破綻する」というインパクトの強い結論を出すために、都合のよい数字を使ったのではないでしょうか。
4,000万円とまではいかなくても、「夫婦2人が無理なく老後生活を送るのに必要な月額は〇〇万円」という記事もよく見かけます。でも、これも「この金額がなければ生活は無理」というものではなく、「いくら欲しいですか?」と聞かれたシニアの回答を平均化している場合が多いようです。