日本に暮らす在留外国人数は376.9万人に達し(2024年末現在)、過去最高を記録しました。しかし、増加する「外国人の隣人」に対し、誤解や不安を抱く声も少なくありません。本連載では、母国を離れ日本で生活する人々の実情に迫ります。今回は、電子部品メーカーで働くベトナム出身のヒウさんが、日本での就職活動と在留資格を巡る葛藤を語ります。
日本で働くベトナム人、電子部品メーカー勤務のヒウさん。サブカルチャーを愛し、日本社会に深く根ざした在日外国人の一例。
アニメから着想を得た「社畜」願望と現実の壁
学生生活の終わりが近づく4年次、ヒウさんは自身の進路を真剣に考える時期を迎えました。「アニメや漫画でよく出てくる『社畜』という言葉。実際にどんなものなのか、せっかく日本に住んでいるのだから体験してみたいと思ったんです」と冗談めかして語ります。しかし、このユニークな動機から始まった就職活動は「地獄でした」と振り返ります。何十社もの企業から不採用通知を受け取る日々は、彼に想像以上のストレスを与えました。
在留資格がもたらす外国人就職の重圧
日本に住む外国人は、目的に応じた適切な「在留資格」を持つことが義務付けられています。当時のヒウさんの「留学」ビザは、卒業後に就職が決まらなければ失効し、日本に滞在し続けることはできません。「技術・人文知識・国際業務」といった就労ビザへの切り替えが必須であり、仕事が決まらなければ帰国するしか道はないのです。これは、日本人にはない、在日外国人特有の極めて大きなプレッシャーとなります。
手書き履歴書と面接の多さが立ちはだかる
当初、ヒウさんが目指したのはKADOKAWAや小学館といったアニメ・出版関連企業でした。しかし、これらの人気業界は優秀な新卒学生が殺到するため、競争は非常に激しいものでした。間口を広げ、多くの企業に応募するも、次々と不採用通知が届きます。特に彼を苦しめたのは、日本の就職活動における「履歴書の手書き」という慣習でした。「一部の会社は履歴書が手書きじゃないとダメで。あれをたくさん書くのは、外国人にとって本当に大変なんです」と語ります。
書類選考や筆記試験を突破しても、次には複数回にわたる面接が待っていました。「面接の回数が多すぎませんか?」とヒウさんはこぼしますが、それでも最終面接まで残った企業は5社。しかし、その全てで不採用という厳しい現実に直面することになったのです。
日本社会で働く外国人にとっての道のり
ベトナム出身のヒウさんの体験は、在日外国人が日本でのキャリアを築く上で直面する特有の困難を浮き彫りにしています。「社畜」になりたいというある意味で日本文化への深い理解からくる動機とは裏腹に、ビザの制約、文化的な壁、そして激しい競争が、彼らの就職活動をより過酷なものにしています。この話は、日本社会が多様な背景を持つ人々を受け入れ、共生していく上での課題と、彼らが日々感じている計り知れない重圧を私たちに問いかけています。