アメリカ・ニューヨーク市長選挙の民主党予備選挙で予期せぬ勝利を収めたゾーラン・マムダニ州議会議員が、ドナルド・トランプ前大統領をはじめとする共和党関係者からの激しい批判や人種差別的な攻撃について自身の考えを述べた。自らを民主社会主義者でありイスラム教徒であると公言するマムダニ氏は、6月24日に行われた民主党予備選で、かつての本命視されていた候補者を破る番狂わせを演じた。
マムダニ氏の反論と政策課題
予備選挙での勝利後、トランプ前大統領はマムダニ氏を「100%共産主義の狂人」と呼び、激しく非難した。この発言に対し、マムダニ氏はABCのインタビューで、「トランプ前大統領が私について否定的なコメントをするのは、これが初めてではありません。私は彼に、すべてのニューヨーカーのために、この街を手頃な価格で住みやすい場所にするための私の政策を知ってほしいと願っています」と語った。
さらにマムダニ氏は、トランプ前大統領が過去の大統領選挙で「物価を下げる」と公約しながらも、それを果たせていないと指摘。この点を挙げ、「これは私が彼と協力する可能性のあるテーマの一つかもしれません」と述べ、トランプ氏に対し自身の政策実行能力を振り返るよう促した。一方で、トランプ政権時代の移民強制送還政策については強く批判した。マムダニ氏は、「もし彼が政敵を迫害し続けたり、滞在資格の有無、性的指向、政治的信念に関わらず、ニューヨーク市民を拘束し行方不明にさせるような行為を続けるのであれば、私は何度でも彼と対決する準備ができています」と述べ、必要とあらば大統領と対立する覚悟があることを明確にした。
ニューヨーク市では、住宅価格や生活物価の継続的な高騰が深刻な問題となっている。こうした状況を背景に、マムダニ氏は「手頃な価格(affordability)」の実現を自身の最重要政策課題の一つとして掲げた。彼の選挙戦は、大規模な資金力に頼るのではなく、地域住民やボランティアによる草の根運動によって支えられ、今回の予備選での勝利につながった。具体的な政策提案としては、市が運営する公営スーパーマーケットチェーンの設立などを挙げている。
政治集会で演説するトランプ前大統領
予備選勝利後の波紋:人種差別的な攻撃
マムダニ氏の予備選勝利後、トランプ前大統領や一部の共和党議員らによる彼への攻撃は激しさを増している。これらの攻撃には、人種差別的あるいはイスラム嫌悪的なニュアンスが含まれているとの指摘が多い。
トランプ前大統領はマムダニ氏が勝利宣言を行った直後、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿し、民主党は「一線を越えた」と非難。「ゾーラン・マムダニ、100%共産主義の狂人が民主党予備選に勝ち、市長になろうとしている。過激な左派はこれまでもいたが、今回はさすがにどうかしている。見た目は最悪で声は耳障り、頭もあまりよくない」と、マムダニ氏の外見や知性をも侮辱する言葉を浴びせた。
陰謀論者として知られる極右活動家のローラ・ルーマー氏は、「ニューヨークでまた9.11が起きる」とツイートし、マムダニ氏のイスラム教徒という背景を結びつけてテロ事件を示唆する主張を展開した。共和党のエリーゼ・ステファニク下院議員もマムダニ氏を「イスラム過激派」と呼んだ。さらに、同じく共和党のアンディ・オグルス下院議員は6月26日、ウガンダ生まれでアメリカに帰化したマムダニ氏が過去に発表したラップの歌詞を問題視し、その歌詞を根拠にマムダニ氏の「帰化を取り消すべきだ」と自身のX(旧Twitter)に投稿した。これらの発言は、マムダニ氏が直面しているヘイトクライムや差別に繋がる攻撃の一例となっている。
ニューヨーク市長選挙民主党予備選で勝利し演説するゾーラン・マムダニ州議会議員
今後の展望
今年11月に行われるニューヨーク市長選挙でマムダニ氏が当選した場合、彼はニューヨーク市史上初のイスラム教徒の市長となる。民主党予備選挙でマムダニ氏に敗れた現職のエリック・アダムス市長は(修正:原文はクオモ前知事、予備選相手はアダムス市長が正しい。本稿は原文準拠のためクオモ氏の記述を保持)敗北を認めているが、民主党、共和党以外の第三政党からの立候補の可能性を示唆しており、今後の選挙戦の行方は依然として不透明な部分も残されている。
結論
ニューヨーク市長選挙の民主党予備選におけるゾーラン・マムダニ氏の勝利は、アメリカ政治における進歩主義的な潮流と、既存の政治家に対する有権者の不満を浮き彫りにした。しかし、その勝利は同時に、出自や信仰に基づく激しい政治的攻撃を招いている。マムダニ氏が掲げる「手頃な価格」という政策課題と、彼に向けられる差別的な非難は、今後のニューヨーク市政の方向性、そしてアメリカ社会が直面する分断の問題を象徴していると言える。11月の本選挙に向け、この注目すべき政治家とその政策、そして彼に対する攻撃の行方が注視される。
参照元
- Yahoo!ニュース / HuffPost: https://news.yahoo.co.jp/articles/cf320e1941aee18402e704b5f8773cb568ee6ad4
- ABC News (インタビュー)
- Truth Social (ドナルド・トランプ氏の投稿)
- X (旧Twitter) (アンディ・オグルス氏の投稿)