がん患者は入院して点滴を受け続けている――そんなイメージは、もはや現実と異なってきています。厚生労働省が特定日に全国の施設を対象に行った令和5年の患者調査によると、がん患者の外来患者数は18万6400人に対し、入院患者数は10万6100人。外来患者の方が実に1.75倍も多いという結果が出ています。これは、多くのがん患者が通院しながら治療を受けている実態を示しています。
がんと治療を両立し、働き続ける人々
さらに注目すべきは、治療と仕事の両立に関するデータです。令和4年の国民生活基礎調査によると、15歳以上のがん通院患者は約105万2000人に上りますが、厚生労働省によれば、その半数にあたる約50万人が通院しながら仕事をしていると言われています。がんは、必ずしも「働くこと」を諦めなければならない病気ではなくなっているのです。
筆者自身も、昨年春に膀胱がんが発覚し、肺への転移も確認されてステージ4と診断されましたが、現在もこのように原稿執筆の仕事を続けることができています。
入院中も仕事が可能に?環境の変化
「山田さん、今日もお仕事をしたんですか?」
入院中、夕食後に検温に来た看護師さんが、病室のテーブルに置かれたパソコンを見て尋ねてきました。その日は体調が良かったため、昼食後に2時間ほど原稿を書くことができたのです。看護師さんの素晴らしいケアのおかげで体調が良く、仕事も捗ったと答えると、看護師さんも嬉しそうでした。
テーブルでノートパソコンに向かうがん患者のイメージ。点滴を受けず、日常的な活動を続けている様子
入院中の病室にパソコンやタブレットを持ち込み、仕事をしている患者は少なくありません。筆者が入院した病院では病棟にWi-Fiが完備されており、インターネットでの調べ物や資料のやり取りがスムーズに行え、仕事をする上で非常に助けられました。こうした病院側の通信環境整備の進展や、コロナ禍を経てリモートワークが一般化した新しい働き方も、病室での仕事を可能にする後押しとなっているのかもしれません。
データが裏付ける「がんと共存する働き方」の広がり
改めて、がん患者の就労状況に関する全国的なデータを見てみましょう。令和3年の全国がん登録 罹患数・率 報告によると、1年間の全部位の罹患数は98万8900人で、これは日本人人口の約0.8%に相当する数字です。
そして、先に触れた令和4年の国民生活基礎調査(層化無作為抽出した5530地区の全世帯が対象)では、15歳以上のがん通院者数105万2000人のうち、「仕事あり」と回答した人は40万3000人に達しています。調査方法の違いによる数値の差はあるものの、多くのがん患者が治療を受けながらも社会とのつながりを保ち、経済活動を続けているという現状が、これらの公的なデータからも明確に見て取れます。
まとめ:多様化するがん患者の働き方と支援の重要性
これらのデータと筆者の経験は、がん患者の生活や働き方が多様化している現実を示しています。診断されたからといって、すぐに仕事や社会との関わりから切り離されるわけではありません。通院治療や柔軟な働き方を活用することで、治療と仕事、そして自分らしい生活を両立させている人々が多く存在します。
がんと診断された人、そしてその周囲の人々が、「がんと共に働き、生きる」という選択肢があることを知り、適切な支援を受けながらその道を歩めるような社会的な理解とサポート体制が今後ますます重要になるでしょう。
参考資料
- 厚生労働省 令和5年 患者調査
- 厚生労働省 令和4年 国民生活基礎調査
- 厚生労働省 令和3年 全国がん登録 罹患数・率 報告