石丸伸二氏率いる新党「再生の道」、都議選でゼロ議席の惨敗:敗因と今後の展望

6月22日に投開票された東京都議選では、自民党が議席を減らし、小池百合子都知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」が31議席を獲得して第一党に返り咲いた。一方で、昨年7月の都知事選で注目を集めた石丸伸二氏(42)が率いる新党「再生の道」は、42人の新人候補を擁立しながらも、獲得議席がゼロという結果に終わった。都知事選の勢いから「台風の目」と目されていたが、まさかの惨敗となった。

この結果を受け、インターネット上では「オワコン」「メッキが剥がれた」といった厳しい声も聞かれる。なぜ「再生の道」は議席を獲得できなかったのか。現場で取材した全国紙の政治担当記者は、その敗因について複数の要因を指摘する。

「党としての公約は『都議の任期は2期8年』という一点のみでした。それ以外の政策は候補者個々の自主性に任されていたため、党全体としての統一感がなく、訴えがバラバラになっていました。他党が子育て支援や減税といった具体的な政策で議論を深める中、『再生の道』は有権者に響くインパクトのある政策を打ち出せなかったのです」

さらに、候補者擁立の戦略にも課題があったという。「世田谷区など、複数の候補者を擁立した選挙区では、候補者同士が票を『食い合う』現象も見られました。これが得票に影響した可能性は高いです」

石丸氏自身も選挙期間中に各地で応援演説を行ったが、その回遊の仕方が最適ではなかったとの見方もある。「石丸氏は万遍なく応援に入った印象ですが、当選の可能性がある競り合った選挙区に重点的に入っていれば、少なくとも1議席は獲得できたかもしれません。この点については、石丸氏本人というよりは、選挙対策本部(選対)の戦略に問題があったと言えるでしょう」

都議選が公示された6月13日、石丸氏の第一声のために集まった聴衆は約40人にとどまった。これを見た他党の関係者からは「石丸伸二は完全にピークアウトしている」という声も聞かれた。

石丸伸二氏、新党「再生の道」を率いて都議選に挑戦する姿石丸伸二氏、新党「再生の道」を率いて都議選に挑戦する姿

しかし、石丸氏は惨敗との見方に対し強気の姿勢を崩さない。獲得議席ゼロという結果を「惨敗」と捉える向きに対しては、「目標は都議選に候補者を擁立すること自体でした。『再生の道』としてやるべきことはやったと考えています」と反論している。

都議選を参院選の前哨戦と位置付けたNHKの報道に対しては、「すさまじく違和感を覚えていました」「NHKともあろう局がそのような表現をすべきではない。まず改めて強く批判をしておきます」と噛みつき、厳しい言葉で非難した。日本経済新聞の記事に対しても、言葉尻を捉えては「日経新聞ともあろう新聞社が情けない限りです」と苦言を呈するなど、メディアへの強い不信感を露わにした。

別の取材記者は、昨年の都知事選との比較で「異変」を感じたという。「メディア側の熱量が冷めていたのが明らかでした。都知事選で石丸氏と鋭くやり合っていたテレビ朝日は記者会見にすら姿を見せず、日本テレビもいなかったと思います。質疑応答でも、踏み込んだ深い質問はほとんど出ませんでした。多くのメディアが、石丸氏のパフォーマンスやメディア露出に利用されることを嫌がるようになっていたのでしょう」

石丸氏は自身のSNS戦略を重視しており、「再生の道」の候補者選定オーディションでも、候補者のSNS動画の再生回数を気にする場面があったとされる。しかし、今回の選挙戦における時事通信の調査では、YouTubeやX(旧Twitter)の情報を「参考にしなかった」と回答した有権者は61.5%に上り、「参考にした」の35.7%を大きく上回る結果となった。これは、SNSだけでは選挙の勝利に繋がらない現実を示唆している。

選挙翌日の6月23日に更新された『日テレNEWS』に出演した石丸氏は、議席ゼロの結果について「議席を狙いにいけば手に入ったかもしれない。数字の上では可能性はあったと思います。しかし、それをやるんだったら、他の党とあまり変わらない」と語った。そして、議席獲得よりも都議選を通して有権者に「選挙の本質」に気づかせることこそが、本来の狙いだったと弁明した。

さらに同日配信のYouTube番組『リハック』では、『再生の道どうだった? 代表が話します』と題された動画に出演。プロデューサーの高橋弘樹氏や社会学者の西田亮介氏らの質問に対し、時折笑顔も見せながら回答していた。

しかし、「再生の道」のある候補者のスタッフからは、石丸氏のこうした姿勢に対し厳しい意見が出ている。「影響力のあるメディアに出るなら、選挙前か選挙期間中に出て、候補者のためにアピールしてほしかった。選挙が終わった後に『あれはこうだったんだ』と言われても、現場で戦っていた候補者やスタッフにとっては何も意味がありません。結局、彼は候補者と同じ目線ではなく、一つ上の場所から『プロデューサー』のように選挙戦を眺めていただけなのではないかと感じてしまいます」

世田谷区から立候補していた鳥海彩氏は、6月24日に今後の政治活動継続を表明しつつも、「再生の道」からの離脱を表明した。その理由として、「石丸氏の一部のファンの方からのバッシングが精神衛生的にマイナスであること」を挙げている。

7月に入れば、3日公示、20日投開票の参院選が控えている。「再生の道」からは、激戦が予想される東京選挙区に新人の吉田あや氏を擁立。さらに9名が比例代表で出馬する予定だ。石丸氏自身は現時点で立候補しない見込みとなっている。

果たして、参院選で石丸新党は巻き返すことができるのだろうか。政治評論家の有馬晴海氏は、今回の都議選結果と今後の展望について分析する。

「『再生の党』は、明確な政策をほとんど持っておらず、政党としての体をなしていません。言うなれば『石丸同好会』のような存在なのです。つまり、『石丸伸二が好き』という人々が集まって立候補したという構図です。確かに石丸さんを個人的に応援している人は多いのですが、石丸さんが推薦する候補者を応援するという形には、まだそこまでなっていなかったと言えます」

しかし、有馬氏は石丸氏の人気がなくなったわけではないと指摘する。「石丸さんという強力なバックグラウンドがあるだけで、候補者はそれなりの票を獲得できています。石丸さんの影響力が全くなくなったわけではありません」

7月の参院選については、「今回も石丸氏は自ら立候補する予定がないため、注目度という点も含めて厳しい戦いになるでしょう。しかし、都知事選の際には全国からボランティアが駆けつけたように、一定数の熱心な支持者は日本中に存在します。今回の参院選で比例代表で一つでも議席を獲得できれば、それは『再生の道』、そして石丸氏にとって大きなアピールポイントとなります」と述べる。

そして、有馬氏は石丸氏の真の狙いは国会での活動よりも、その先にあると見ている。「石丸さんの本心は、おそらく3年後の東京都知事選を再び狙っているのでしょう。現在の小池百合子知事も75歳となり、次回出馬しない可能性も十分にあります。そうなれば、石丸さんにとって勝機は大きいと考えられます」

しかし、次期都知事選まで3年間何もせずに待っていては、有権者の記憶から忘れ去られてしまうリスクがある。「そのため、今回のように新党を立ち上げ、自身は立候補しないものの候補者を立てて選挙を戦うことで、常に話題を作り続けることができます。選挙はメディアが大きく取り上げるため、自身の知名度を維持・向上させる非常に効果的なPRの場となるのです。また、候補者の得票状況などから、自身の支持層の広がりや傾向をリサーチすることもできます」

有馬氏は、石丸氏の今回の都議選への取り組みを「候補者を何とか当選させるというよりは、自身の将来のために選挙を巧みに利用している」と分析する。

前大阪市長の松井一郎氏もYouTubeで石丸氏に言及し、「参議院選挙に向けて、この都議選で一定の支持基盤を固めていこうとしたのでしょう。議会選挙でどの程度票を取れるか、石丸氏はそういうところも知りたかったのではないかと思います」と分析を披露した。

都議選での惨敗を経て、石丸氏の「したたかな戦略」は、来る参院選で「風」を巻き起こすことができるのか。今後の動向が注目される。