中国政府は、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に伴い約2年間停止していた日本産水産物の輸入を条件付きで再開した。中国は処理水の危険性を国際社会に訴えてきたが、トランプ米政権との対立が深まる中で、日本を引きつける必要もあって軌道修正したとみられる。日本の水産業界からは歓迎する声が上がる一方で、官民挙げて「脱中国」を進めてきたことから、中国への輸出量が回復するかどうかは見通せない。
中国政府による日本産水産物輸入再開の決定を示す中国国旗
「処理水への反対姿勢変わらず」中国の条件付き解除
中国外務省の毛寧報道局長は30日の記者会見で、「リスクが見つかれば直ちに輸入制限の措置を取る」と述べ、輸入再開後も監視を続ける姿勢を表明した。また、処理水を「核汚染水」と呼び続け、「海洋排出に反対する中国の立場に変わりはない」とも強調した。福島県など10都県からの輸入は引き続き停止されており、今回の解除は条件付きで限定的なものだとの姿勢をにじませている。
なぜ今、中国は輸入停止を解除したのか?誤算と国内への影響
中国は当初、近隣国が自国に追随し日本を追い込めると考えたが、これは誤算だったとの見方がある。日本への非難はブーメランのように影響を及ぼし、中国側が危険性を煽ることで、中国内陸部を中心に水産物の消費を嫌がる傾向が生まれ、自国の水産業が深刻な打撃を受けるという皮肉な状況を生んだ。さらに、今年は中国にとって「抗日戦争勝利80周年」の節目にあたり、7月以降は記念行事が相次いで予定されている。ナショナリズムが高まりやすい時期に入る前に輸入再開を決断し、日中関係への悪影響を最小限に抑えたい思惑も透ける。
日本水産業界の期待と「脱中国」進む輸出構造の変化
輸入停止前の2022年の水産物輸出額は、中国が約871億円と国・地域別で最大だっただけに、日本の水産業界内には期待の声も上がる。しかし、過去2年間で輸出構造は大きく変化した。最も規模が大きいホタテの輸出額をみると、22年に中国がトップだったが、輸入停止後の24年は米国、ベトナムが増えた。関係者によると、中国で加工して米国に輸出することが多かったが、米中対立などの影響もあり、中国内の加工業者の多くがベトナムなどに移転するなど、加工、流通経路が大きく様変わりした。
中国での日本食人気と水産物需要を示す北京のスシローに行列する人々
日本の水産業界関係者は「米中対立もあり、再び加工業者が中国に戻る可能性は低いのではないか」と話している。ブリなど九州から中国への輸出が多かった品目も、日本政府の統計によると、中国の輸入停止以降は韓国向けが増えたことなどから、24年の全体の輸出額は22年比で1割以上増えている。官民挙げて進められてきた「脱中国」の流れは、今回の再開後も続くと予想される。
再開への道のり:煩雑な手続きと見通せない回復時期
中国への輸出再開には、日本国内の水産業者が貿易に必要な施設を再登録するなど煩雑な手続きが求められる。中国への水産物輸出を手がける日本の商社関係者は「国内の業者が一斉に申請するので、再登録にどれだけ時間がかかるのか見通せない」と不安を口にした。これらの手続きにかかる時間や、申請がどの程度スムーズに進むかは現時点では不透明であり、実際に中国への輸出量が回復するまでには時間がかかるとの見方が強い。
中国による日本産水産物の輸入条件付き再開は、日本の水産業界にとって明るい兆しとなりうる一方で、中国側の継続的な監視姿勢や、すでに変化した輸出構造、そして煩雑な貿易手続きなど、完全な回復への道のりには依然として多くの課題が残されている。今後の輸出動向が注視される。