7月3日公示の参院選で、最大の焦点の一つとなっているのが物価高対策だ。主要な政策案は「給付」や「減税」、あるいはその組み合わせに分かれている。この状況に対し、第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、物価高対策としての消費税減税には疑問を呈している。
総務省の2024年家計調査によれば、勤労者世帯は全世帯の52.8%、無職世帯は37.8%、自営業などは9.4%を占める。この構成比から見ると、賃上げの恩恵は全世帯の約半数にとどまっていると言える。加えて、勤労者の約7割は賃上げ率が比較的小さい中小企業に勤務している状況だ。
このような背景の中、家計の消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は、2024年に28.3%まで上昇し、これは1981年以来、43年ぶりの高水準となっている。食料品価格の高騰が家計を圧迫している現状は明らかであり、このため参院選を前に多くの野党が消費税減税を公約に掲げることに対し、世論やメディアにも肯定的な見方がある。
消費減税の効果に疑問符を投げかける専門家
こうした消費税減税を求める風潮に対し、第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは明確に異論を唱えている。「消費減税を物価高対策として見た場合、その効果は不明確です。現状では、何のために減税を実施するのか、その必要性がよく理解できません」と熊野氏は述べる。
物価上昇を抑制するための一般的な手法としては、マネー供給量を抑制することが挙げられる。これには、日本銀行による利上げと、政府による財政引き締めの二つの経路があると熊野氏は解説する。
第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミスト
しかし、現在のようにトランプ関税に関する交渉が続いている状況では、日本銀行が安易に利上げに踏み切ることは難しい。一方で、物価上昇を過度に刺激しないためには、財政を直ちに引き締めないまでも、少なくともニュートラルな状態に保つことが適切である、と熊野氏は指摘する。
なぜ消費減税は物価高対策にならないのか
熊野氏はインフレを火事に例え、減税による物価高対策の有効性を否定する。「なぜ火事が起きたのか。その元をたどれば、円安と財政拡張政策に原因があります。火元を消火しないまま、自分の身に水をかけても火は鎮火しません」。減税は、インフレの根本原因に対処するものではないという主張だ。
そもそも、インフレ局面は財政再建に取り組む絶好の機会であるはずだ。それにも関わらず、なぜ財政拡張路線へと進もうとするのか。それは物価対策としても逆効果になるという。
「減税は財政再建の機会を逸するだけでなく、物価高対策とも逆行する行為です。この両面から見ても、減税ありきで議論が進むのはおかしいと考えます」と熊野氏は結論付けている。
結論:物価高対策としての消費減税への再考を
参院選を控える中で、物価高に苦しむ家計への対策は喫緊の課題である。しかし、第一生命経済研究所の熊野英生氏のような専門家は、広く議論されている消費税減税の有効性に疑問を呈し、財政再建の機会損失やインフレ抑制への逆効果といったリスクを指摘している。有権者は、様々な専門家の意見に耳を傾け、どの対策が真に家計を助け、経済全体の安定に繋がるのかを見極める必要があるだろう。