住吉会、チャイニーズドラゴン、14K…「ホテル詐欺」逮捕劇に見え隠れする裏社会の不自然さ

日本各地で暗躍する匿名・流動型犯罪グループ、通称「トクリュウ」。その台頭は、裏社会が「液状化」しつつある現状を示唆しています。そうした中、6月9日、警視庁は住吉会、チャイニーズ・ドラゴン、香港マフィア「14K」の関係者らが逮捕されたと発表しました。容疑は暴力団であることを隠してホテルを利用したとする詐欺罪で、日中裏社会の国境を越えた連携を示す「盃事」が行われていたと報じられています。しかし、この「ホテル詐欺」を巡る逮捕劇には、いくつかの不自然な点が見え隠れしています。

逮捕発表の詳細とその背景

警視庁暴力団対策課が発表した逮捕者は計5人。住吉会系の現役幹部2名(田島和幸容疑者、松木秀美容疑者)、準暴力団とされるチャイニーズ・ドラゴンの幹部とアナウンスされた白井宇太郎容疑者、白井加次郎容疑者の兄弟、そして同じくチャイニーズ・ドラゴン関係者とされる陳華雄容疑者です。彼らは2023年3月中旬、暴力団の属性を隠して山梨県のホテルに宿泊し、レストランを貸し切りで利用した詐欺の疑いがかけられています。この事件は、別の件で逮捕されたチャイニーズ・ドラゴン関係者のスマートフォン解析から発覚したとされています。会場となったレストランでは、住吉会組員、チャイニーズ・ドラゴン、そして香港マフィア「14K」のメンバーら約30名が集まり、同盟関係を結ぶための「盃事」が行われていた、というのが警察側の見立てです。日本の暴力団と香港マフィアが連携し、その仲介をチャイニーズ・ドラゴンが行ったという構図は、裏社会の国際化を示すものとして注目を集めました。

捜査当局の見立てと「奇妙な点」

日中の裏社会が国境を越えて連携したという見方は、確かにセンセーショナルです。しかし、この発表には専門家の目から見ると、いくつかの奇妙な点が存在します。

暴力団にとってホテル利用が「極めてリスキー」な理由

まず疑問なのは、なぜ暴力団関係者がリスクを冒してまでホテルを利用したのかという点です。暴力団排除条例が施行されて以降、警察の指導により、多くのホテルの約款には暴力団関係者の宿泊拒否条項が含まれています。暴力団であることを申告せずにホテルを利用する行為は、偽名を使わずともそれ自体で詐欺罪になりうることが、暴力団社会では広く周知されています。幹部クラスであれば、ホテル利用を避けるのが常識とされています。さらに、ホテルでレストランを貸し切るという行為は、偽名を使い、素性を隠していたとしても極めてリスキーであり、考えにくいことです。

かつてはホテルや料亭で盃事が行われることもありましたが、暴排条例以降は、たとえ会場が手狭でも、自前のビルや会館、組事務所で執り行われるのが一般的になりました。民間の施設を貸し切り、しかも内密に盃事を行うというのは聞いたことがありません。盃事の儀式には祭壇や供物、盃など様々な道具が必要で、媒酌人が大きな声で進行するため、従業員に気づかれずに執り行うのはほぼ不可能です。警察関係者も「このご時世、暴力団が利用していたと世間に知られれば厳しくコンプライアンスを問われる。従業員は必ず不穏に気付き、上司に報告するだろう」と指摘します。一部報道には、最近このような手口でホテルを利用する組もいるという暴力団関係者の談話があったものの、にわかには信じがたい状況です。

ネオン街に蠢く裏社会のイメージ画像ネオン街に蠢く裏社会のイメージ画像

容易な「詐欺罪」が警察にもたらすもの

このようなホテル利用による詐欺罪は、警察にとってはある意味「おいしい」犯罪です。微罪であるにも関わらず、利用の事実さえ証明できれば比較的容易に有罪にできるため、捜査に労力がかかりません。加えて、暴力団上層部の逮捕は警察組織内での評価にもつながります。暴力団側は、こうしたトラップに絡め取られないよう、弁護士を招いて勉強会を開くなど対策を講じています。そんな状況で、わざわざリスクの高い行動をとるのは、通常の感覚からすると不自然です。

しかし、取材を進める中で、奇妙な事実が浮上しました。どうやら、逮捕された容疑者の中に、会場となったホテルの実質的なオーナーグループのメンバーがいるらしいのです。ホテルの土地建物や法人登記を調べてもその名前はありませんでしたが、この容疑者を知る経営者は、複数の仲間たちと経営権を共同所有していると証言しました。「自分のルーツである福建省出身者たちと一緒に買った物件。コロナ中でもなんとかやりくりしていた」と話しています。もし自身が実質的に所有するホテルであれば、従業員への口止めも容易でしょう。最悪、警察に情報が漏れても、まさか逮捕されるとまでは思っていなかった可能性が考えられます。

逮捕者の「属性」に対する疑問符

逮捕者たちの「属性」についても不明瞭な点があります。暴力団は未だ社会の中で公然と看板を掲げている場合が多く、組織の名簿によって所属が比較的明確に証明されます。今回逮捕された住吉会関係者のうち1人は武闘派として知られる二次団体の総長であり、もう1人も幹部クラスであることは間違いありません。

しかし、白井兄弟のチャイニーズ・ドラゴン幹部という肩書については、事実誤認である可能性が高いことが分かりました。関係者によると、「捕まった白井兄弟は2人とも残留孤児の2世で、来日後に日本で帰化した。弟(白井加次郎容疑者)はまったく不良ではない。兄貴(白井宇太郎容疑者)と一緒に行動しているし、iPhoneの転売で騒ぎを起こして逮捕されたことがあるので、事情を知らない部外者からはそう見られているだけだ」とのことです。一方、兄の白井宇太郎容疑者は、残留孤児2世・3世の中でも「ワル」として知られています。彼は以前の事件でもチャイニーズ・ドラゴンの幹部と報道されたことがありますが、白井容疑者がドラゴンのメンバーではなく「密接交際者」であっても、別系統の人間だという事実を警察が知らないはずはありません。

過去の事件が示す警察の認識

警察が白井容疑者の本当の属性を把握していることは、過去の事件からも推測できます。2005年9月、JR宇都宮線の車内で上野署の刑事課長代理と一般男性が口論になった際、赤羽駅で下車した刑事は、あろうことか白井容疑者に電話してトラブル解決を依頼しました。その「解決方法」は暴力であり、白井容疑者は当然逮捕されました。当時の新聞報道を見ると、白井容疑者は「知人の会社役員」と報じられており、この時点ですでに警察が彼の属性を正確に把握していたことがうかがえます。今回の発表で再び「チャイニーズ・ドラゴン幹部」とされた背景には、何らかの意図があるのかもしれません。

今回の逮捕劇は、表面上は日中裏社会の国際連携を示すものとして報じられました。しかし、ホテルの実質的オーナーとの関連や、逮捕者の真の属性に関する疑問など、取材を通じて見えてきた事実は、警察発表の単純な構図とは異なる複雑な現実を示唆しています。これは、単なる詐欺事件として片付けられない、変化し続ける裏社会の実態、そしてそれを追う捜査当局の見立てとの間に存在する可能性のある乖離を示す一事例と言えるでしょう。

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